この頃から私生活が乱れはじめる。そして、母国開催のワールドカップを目前に大怪我に見舞われる。18年3月、ヨーロッパリーグのRBライプツィヒ戦（ラウンド・オブ16第２レグ）で前十字靭帯を断裂。エースとして活躍するはずだった檜舞台を逃すことになってしまった。
 
　その憤懣もあったのだろうか。実戦復帰してすぐの18年10月、夜のモスクワで乱暴狼藉に及ぶのだ。付けてきたTVレポーターの車を襲撃し、ドライバーの顔面を殴打して頭部に重傷を負わせると、それから立ち寄ったカフェでも居合わせた客、貿易産業省の官僚ら2人にこれまた殴る蹴るの暴行を加える。椅子まで投げつける非道な行為は防犯カメラに捉えられ、すべてが白日の下に晒された。
 
　代表のチームメイトでクラスノダール所属のMFパベル・ママエフら一緒に暴行を働いた仲間とともにすぐに逮捕・勾留され、19年5月に実刑判決が下る。懲役1年6か月。情状酌量を求めるも認められず、ココーリンは収監された。28歳。選手として盛りを迎えるその時期に犯した愚行だった。

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　幸いにも19 年9月に仮釈放が認められ、ゼニトと単年の再契約を結んで復帰した。ところが、リザーブチーム行きを拒んで我を張り、20年1月にソチへレンタル。しかし、怪我と収監による長いブランクの錆び付きは、どうにもならなかった。
 
　ソチでは10試合で7ゴールと数字は残したものの、このときはコロナ禍の特殊なシーズンで、隔離措置で一軍メンバーが全員不在という対戦相手もあった。半年のレンタル期間を終えてもゼニトには再契約を望まれず、20年8月、フリーでスパルタク・モスクワへ移籍する。3年＋オプション1年の契約を交わしたスパルタクにも腰は落ち着かず、21年1月、フィオレンティーナへ渡る。
 
　念願の国外移籍、フィオレンティーナにとってはアンドレイ・カンチェルスキス以来史上2人目のロシア人選手という物珍しさも手伝って注目と期待を集めた。しかし、1年目は半年間で4試合ノーゴール、2年目は6試合でノーゴールとまったく結果を残せず、いま、キプロスのアリス・リマソルへのレンタル移籍が2年目を迎えている。
 
　ただ、アリスでは英雄になった。昨シーズンは29試合に出場してチームトップの13ゴールを挙げ、クラブ創立93年目にしてのリーグ初優勝に貢献したのだ。今シーズンは自身5年ぶりのヨーロッパリーグを戦い、グループステージ初戦のスパルタ・プラハ戦では先制のPKを決めている。
 
　32歳、辺境に見つけたのは楽園か。
 
文●松野敏史
 
※『ワールドサッカーダイジェスト』2023年11月２日号より転載

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