【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の五十八「国際派監督に求められる語学力」

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2016年02月18日

言葉を理解できなければ入手できる情報や知識は…。

昨年12月に就任したバレンシアで苦戦を続けるG・ネビル監督。スペイン語を習得せずに臨むなど、語学面の準備不足がその一因だろう。(C)Getty Images

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 バレンシアの監督に就任したイングランド人のガリー・ネビルは、「有能な英国人指導者」と言われる。マンチェスター・ユナイテッドでキャプテンを務めた経歴、コーチとしての分析力は、高く評価されている。しかしスペイン語を話せず、監督歴もない。国外で仕事をするには明らかに準備不足だった。バレンシアという強豪の再建を託されながら、就任10試合目にしてようやく初勝利と苦戦している。

 言葉の準備は、監督が成功するための条件の一つに過ぎない。しかしフットボールの基本にコミュニケーションがある以上、スムーズに対話できるかどうかは大きなポイントになる。少なくともトップレベルでは、語学力不足はハンデとなる。なぜなら、監督がチームを束ねて戦っていくためにこなさなければいけない仕事は、うんざりするほどあるからだ。

 もし日本人監督がこれから海外へ出て行くなら、語学力は必須事項になるだろう。逆説すれば、Jリーグや日本代表を率いる外国人監督たちが日本語を習得するようになったとき、ようやく日本サッカーは認められたと言える。当事国の言葉を理解できなければ、コミュニケーションが不足し、手に入れられる情報や知識も限定的なものになるのだ。

 やはりモウリーニョの言うとおり、「言葉くらいできなければ話にならない仕事」ということか。

「監督の仕事の負担は相当なものだよ。なぜなら、我々選手は一人ひとり違う。それをまとめないといけないんだから」

 そう語るのは、スペインを代表するファンタジスタ、ファン・カルロス・バレロンである。彼はこうも言う。

「凡庸な監督は、システムに選手を当てはめようとする。でも、固定した戦術に当てはめて、強引にプレーさせてもうまくはいかない。監督が求めるキャラクターとその選手の持つキャラクターが違っていたら、機能するはずがないからね。正しく機能させるための適切な準備が必要なのさ。偉大な監督は選手の特性を見抜き、正しくチームに順応させられる。監督の仕事はとても手がかかるし、複雑だよね」

 戦う前にいわば勝っている指揮官は得難い。三軍を捨てる価値もある。しかし、そうした聡明な指揮官はたやすく選手を切り捨てることもない。

文:小宮良之

【著者プロフィール】
小宮良之(こみや・よしゆき)/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、2016年2月にはヘスス・スアレス氏との共著『「戦術」への挑戦状 フットボールなで斬り論』(東邦出版)を上梓した。
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