【セリエA現地コラム】25年ぶりのスクデットへ。ナポリを変貌させた異色の指揮官

カテゴリ:連載・コラム

片野道郎

2015年12月25日

バロンドールが獲れる――。指揮官の言葉に発奮したイグアインが爆発。

オフ・ザ・ボールの動きが向上したイグアインはゴールを量産。得点王争いを独走する。(C)Getty Images

画像を見る

 その攻撃メカニズムの中でフィニッシュを担うのがゴンサロ・イグアイン。ここまで17試合でチーム総得点(31)の半数を上回る16ゴールというハイペースでゴールを量産しているのは、その爆発的なスピードとどこからでもワンタッチで枠を捉える傑出したシュート力という生来の武器を活かした単独プレーだけでなく、チームのメカニズムの中で機能する戦術的な動きを身につけ、より完成度の高いストライカーに脱皮したからだ。
 
 サッリ監督は、イグアインに対してこう諭したという。
「お前は世界ナンバーワンのセンターフォワードになれる才能を持っている。なのに、オフ・ザ・ボールの動きが緩慢過ぎる。もっと積極的にスペースに飛び出したり、ゴール前に詰めたりする動きを増やせば、それだけでまだまだ点が獲れる。バロンドールだって夢じゃない。もし今後数年でバロンドールを獲れなければ、それは怠けていたせいで、100パーセントお前の責任だ」
 
 今シーズンのイグアインは、シュート数も枠内シュート数もリーグでダントツの1位。前線でラストパスを待つだけでなくチームの攻撃メカニズムに絡んで自らチャンスを作り出しているからこその数字である。
 
 ナポリは攻撃だけでなく守備に関しても際立った個性を持っている。常に間隔を狭く保った最終ラインが、まるでロープでつながれているかのように協調しながら整然と動く。その唯一の基準はボールであり、敵の選手が入ってきてもラインを崩して掴まえることはしない。自陣ペナルティエリアの中ですらマンマークをせず、完全なゾーンディフェンスを保って守っているのだ。
 
 この連携の取れたみごとなラインコントロールの秘密は、日々のトレーニングにある。サッリ監督は練習場にドローンを2機常備して守備練習を上空から撮影し、リアルタイムでその映像を見ながらラインの動きを修正しているのだ。
 
 明快かつ緻密な戦術から巧みな人心掌握、そして最新テクノロジーの積極活用まで、大手銀行のエリート社員から転身した異色の指揮官のマニアックな仕事ぶりが、ナポリの躍進を支えている。
 
文:片野道郎
 
【著者プロフィール】
片野道郎/1962年生まれ、仙台市出身。95年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させる。『ワールドサッカーダイジェスト』では、現役監督のロベルト・ロッシ氏とのコラボによる戦術解説や選手分析が好評を博している。
 
【関連記事】
【セリエA】前半戦総括「王者ユーベの不振によって近年稀に見る混戦模様に」
【セリエA現地コラム】驚きの快進撃を見せるサッスオーロ。そのハイレベルな戦術とは?
【ブンデス現地コラム】強力2トップが躍動!! 輝きを取り戻したレバークーゼン
現地ベテラン記者が香川真司を密着レポート「香川擁するドルトムントの前半戦総括と冬の移籍予想」
【プレミア現地コラム】モウリーニョの後任に69歳のヒディンクが決定!! 求められるのは「火付け役」としての腕前だ

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト 王国の誇りを胸に
    4月10日発売
    サッカー王国復活へ
    清水エスパルス
    3年ぶりのJ1で異彩を放つ
    オレンジ戦士たちの真髄
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト 特別企画
    5月1日発売
    プレミアリーグ
    スター★100人物語
    絆、ルーツ、感動秘話など
    百人百通りのドラマがここに!
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 完全保存版
    1月17日発売
    第103回全国高校サッカー選手権
    決戦速報号
    前橋育英が7年ぶりの戴冠
    全47試合&活躍選手を詳報!
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ