【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の四十三「無事是名馬」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年11月05日

鍛錬と戦いの連続に耐えられた肉体と精神は、驚くほどに強靱さを増す。

12歳以降、不休でプレーを続けるナチョ。丈夫さと継続性によってレアル・マドリーとスペイン代表で重宝される“名馬”は、先日のCL・パリSG戦では決勝ゴールを奪った。(C)Getty Images

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 レアル・マドリーにナチョ・フェルナンデスというDFがいる。ナチョは12歳の時に足首を痛めて練習を休んだが、それ以来、プロになっても不休でプレーしている。彼はマドリーでレギュラーを掴み取ったとは言えないが、その頑健さを活かし、主力選手が離脱した時、疲労が溜まった時に穴を埋めている。
 
 丈夫さと継続性によって、ディフェンスのポジションなら左右のSB、CBとどこでも対応できるのも強みだ。無事であることで、ユーティリティ性を味方につけたのだろう。
 
 ナチョは、ビセンテ・デルボスケ監督率いるスペイン代表にも招集されている。各ポジションでの実力、実績で言えば、ナチョを上回る選手はいるかもしれない。しかし招集メンバーが限られる代表チームにとって、すべてのポジションを高いレベルでこなせる存在は欠かせず、加えて故障離脱の可能性が少ないとなれば、ナチョの価値は必然的に高まる。これぞ“名馬”と言い換えられるだろう。
 
 そして11月3日のパリSG戦。32分にマルセロが怪我をすると、ナチョはピッチに立った。その3分後には決勝点となる虎の子の1点を叩き込んでいる。
 
 継続は力なり。
 
 スポーツ界ではそんな格言もしばしば用いられるが、鍛錬と戦いの連続に耐えられた肉体と精神は、驚くほどに強靱さを増す。アスリートには験を担ぎ、ルーティーンを替えない選手が少なくないが(昔、話題になったイチローの朝カレーなどもそのひとつだろう)、継続の効果をよく知っているのだ。その“おまじない”は、怪我という非日常を避けるための本能的行動なのかもしれない。
 
 継続の強健さは、ときに非凡な素質をも超えられるものである。
 
 無事是名馬。
 
 それは続けられるという素質であり、怪我や病気という災いから逃れられる運命の強さとも言えるのかもしれない。
 
文:小宮良之(スポーツライター)
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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