【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の四十三「無事是名馬」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年11月05日

選手が怪我や病気などでキャリアを中断せざるを得ないのは、後れを取ることを意味する。

2006年に左膝の前十字靭帯を傷め、1年後に一度は復帰するも再手術……。バレロンほどの名手でも、怪我によるブランクは大きかった。(C)Getty Images

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 無事是名馬。
 
 それは作家、菊池寛が前後を引用して作った造語で、剛健に走る馬を賞賛する表現として用いられた。競馬を愛し、自らも馬主であった菊池は、能力が抜きん出ていなくとも走り続ける逞しさ、丈夫さを称えている。
 
 そして時代を経て、その言葉はアスリートを愛でる時にも使われるようになった。運動競技者は、その戦いのなかで精神や肉体を消耗させる。接触が多い競技では対人プレーにより怪我を生じやすい。その世界で無事にプレーを続けられる選手は、まさに“名馬” と言える。
 
 選手が怪我や病気などでキャリアを中断せざるを得ないのは、後れを取ることを意味している。その間、ライバルはプレーを研ぎ澄ませて経験を得られるが、無事でない選手は戦いの感覚を鈍らせるからだ。
 
 天才と言われていた選手がいつの間にか姿を消す場合、慢性的な怪我に見舞われている場合が少なくない。
 
「怪我から復帰した時は、自分はこんな環境でボールを蹴っていたのか! って焦ったのを覚えているよ。まるで、やったこともないスポーツのような感覚。それほどのスピード感だった」
 
 膝靱帯の怪我による1年のブランクから復帰したファン・カルロス・バレロンは、スピードに慣れるまで苦労したという。彼ほどの名手でも、落差は大きかった。トッププロにおいて、怪我がどれだけのデメリットなのか。逆説すれば、無事にプレーできることがどれだけのメリットか分かるだろう。
 
 もっとも、怪我や病気は不意に襲ってくる不運のようなものである。不摂生や練習方法が批判の的になるケースはあるが、必ずしも論理的に説明できるものではない。むしろ、真面目な選手の方が怪我に見舞われることもある。限界を超えてもプレーしようと、無理をしてしまうからだ。一方、自分に甘い選手は心身を鍛練できず、怪我はなくてもプレーを向上させられない。
 
 無事是名馬。
 
 それは志したからといって、簡単にたどり着ける境地ではない。
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