【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の四十一「資質と戦術」

カテゴリ:Jリーグ

小宮良之

2015年10月22日

集団戦術が熟成していないチームで、個人の力を示すのは簡単ではない。

スコアは悪くないが、内容は乏しかったイラン戦。変わりゆく局面にアジャストできていたのは、長谷部ひとりと言っても過言ではなかった。写真:サッカーダイジェスト

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 FIFAランキング上位であるイランとのアウェー戦。日本は吉田麻也がPKを献上して先制を許すも、後半に本田圭佑の右サイドからの左足クロスを武藤嘉紀がGKと交錯しながら押し込んだ。1-1のドローは決して悪くないだろう。
 
 しかしそれはスコアの話で、内容は乏しかった。
 
 イラン戦、変わりゆく試合の局面においてプレーをアジャストできていたのは、先発メンバーでは長谷部誠ひとりだったかもしれない。歴戦で習得した老練さというのか、中東特有のプレー強度にも対応。ミスはあっても重大ではなく、落ち着いて的確に2列目やサイドの選手にボールをつなげ、守備のバランスも取っていた。
 
 失点シーンにしても、彼はいち早く危険を察知しており、ボールホルダーに対して冷静に2対1を作っている。
 
 ところが、経験の差なのだろうか。まるで代表キャップ数の違いが如実に表われるかのように、出場機会を得た控え組は精彩を欠いた。米倉恒貴、酒井高徳、柴崎岳、宇佐美貴史らは経験のなさ故か、戦いの流れに入れずミスが目立った。
 
 交代で出場した選手たちも五十歩百歩の出来だったと言える。彼らが技術を持っていることは間違いないが、試合のなかで出すことができていない。集団戦術が熟成していないチームで、個人の力を示すのは簡単ではないのだ。
 
 すなわち、それが今の代表の姿と言える。
 
 ワールドカップ・アジア最終予選に向け、“試合の流れを掴めない”という点は危惧すべきだろう。シリア戦も前半45分間は、流れを変えられず過ごした(この時も試合にフィットできていたのは岡崎慎司らわずかだった)。
 
 日本には世界に比肩するボールプレーヤーがいるはずで、彼らがパスをつなぐことでリズム感は出せる。それはプレーの余裕になるはずだが、組み立て段階でボールを失うシーンが多くなっているのだ。
 
 これは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「縦の速さ」を強調する弊害なのだろうか。日本人は組織を重んじる従順性を持っており、好むと好まざるにかかわらず、監督のメッセージは時に呪縛になる。パスをつないでテンポが作れず、フィジカルインテンシティで押し込まれ、その特長を出せない試合が続いている。縦に速く、という監督の色は濃くなりつつあるのだが……。
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