【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十九「GKとストライカー」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年07月30日

名うてのゴールゲッターのシュートを毎週のように防いでいれば、スキルが鍛えられるのは必然。

エスパニョールでの活躍が認められ、育成年代を過ごしたレアル・マドリーに舞い戻ったカシージャら、近年のスペインは実力派GKを多数輩出。その背景には、一流のゴールゲッターの存在がある。(C)Getty Images

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「GKはストライカーによって鍛えられる」
 
 そんな理論を、あるイタリア人指導者から聞いたことがある。
 
 かつてイタリアはGK大国だった。その理由は、セリエAの有力クラブが世界有数のストライカーを買い集められたからだという。世界最強リーグとして名を馳せていた時代、イタリア人GKたちはファン・バステン、ジョージ・ウェア、ロナウドらモンスター級の攻撃を浴び、着実に成長を遂げた。カテナチオという守備重視の文化はあったにせよ、優秀なGKを輩出したのは文化的背景だけが要因ではない。
 
 今やスペインがGK大国となっているのは、理論の裏付けと言えるだろう。リーガ・エスパニョーラには、リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドら世界最高のアタッカーが集う。名うてのゴールゲッターのシュートを毎週のように防いでいれば、スキルが鍛えられるのは必然だ。同国ではイケル・カシージャスを筆頭に、キコ・カシージャ、セルヒオ・リコら次代を担う逸材も育ちつつある。デ・ヘア、レイナ、ビクトール・バルデス、ディエゴ・ロペスなど多くのGKが国外の有力クラブに飛び出してもいる。
 
 日本人GKの技術が高まりを見せた時期も、実はJリーグ開幕で各国の有力ストライカーがやってきた頃と符合する。川口能活、楢崎正剛らはその世代と言えよう。もっとも、当時はその効果が一部の選手にしか波及せず、リーグ全体でのGKレベルは発展途上だった。
 
 現在はゴールキーピング指導の普及によって、底上げがなされつつある。平均以上のGKは増えた。しかし世界水準の守護神を増やすためには、世界水準のストライカーたちと切磋琢磨する必要がある。海外移籍は現実的でなくとも、アジア・チャンピオンズリーグなどの国際大会で一つひとつ勝ち星を挙げ、異なるプレースタイルで攻めてくる相手との経験を重ねるべきだろう。
 
 そして逆説すれば、能力の高いGKが良いストライカーを育てるもの。国際大会での「得点力不足」が叫ばれ続けるが、問題解消にはGKの成長が欠かせない。両者は対のような存在なのである。
 
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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