マインツのプレースタイルが求める条件についても、武藤はすでに十分理解している。シュミット監督は、攻撃の選手に対して、組織としての秩序を守り、精力的に走り、最前線でもアグレッシブにプレッシングを行なうことを求める。
 
　さらに要求は続く。選手間を短く保つこと、うまくスペースを使うこと、攻守でのインテンシブな走り、予測した動き、切り替えでの反応の速さ、相手陣内の深いところへのスプリント、ペナルティーエリアに向かっての勇敢な高速ドリブル、相手のSBとCBとの間に走り、なるべくシュートまで持ち込むこと……。
 
　マインツ首脳陣は、武藤が右または左のウイングで、これらの要求に応えられることを確信している。さらにハイデル・マネジャーは「ヨシノリは様々なポジションで起用できる。これは非常に好ましいことだ。CFもできる」と語っている。
 
　しかしだからといって、武藤のポジションが約束されたわけではない。シュミット監督は、これからの数週間で、岡崎の後継者をひとり獲得するつもりであることを明かしている。
 
　武藤のライバルは当面、ハイロ・サンペリオ、パブロ・デ・ブラシス、ク・ジャチョル、クリスティアン・クレメンス、そして非常に才能のある若手デバンテ・パーカーである。
 
　そんな厳しい環境のなかで、武藤は最初の半年の間に、ブンデスリーガの強いフィジカルに慣れ、マインツの戦術的な原則を学んで身につけなければならない。そして、パスの安定性、ツヴァイカムプ（１対１）、スピードなどで良い数字を出すべきである。
 
　これらのことがウィンターブレークまでにできたなら、そしてさらに、ゴールを２、３点挙げられたなら、それでもう十分に期待に応えたことになるだろう。
 
　マインツにとっては高い約300万ユーロという移籍金が適当だったかどうかの判断が、最初の１年で下されることはないだろう。マインツ、そしてこのクラブを取り囲む環境（メディアを含む）は、若い選手たちには特に、十分な適応時間を与えることで有名である。
 
　武藤が期待に応えられるかどうかは、彼自身の出来以外に、２、３のポジションが新しくなるチーム自体が、新シーズン開幕までに、どれだけ勢い乗れるかにもかかっている。
 
　武藤のコファス・アレーナでの最初のパフォーマンスは、十分に注目に値するものだった。
 
　紺色のスーツ、それに合わせたネクタイ、胸のポケットには白いハンカチ、黒のエナメルの皮靴……このようなビジネススーツで入団会見に臨んだ選手は、これまでにいなかった。そして最初の挨拶を、武藤はドイツ語でやってのけた。
 
　これだけでも、武藤はマインツのジャーナリストたちのリスペクトを集めたのである。
 
文：ラインハルト・レーベルク Reinhard Rehberg 「アルゲマイネ新聞」コラムニスト
翻訳：円賀貴子