全ての目標を失ってしまったミランが、現在リーグ２位のローマに勝利した。それも、勝利に十分値する、堂々たるプレーをして、だ。
 
　その理由を紐解いてみると、最初に思い浮かぶのは「怒り」。ミラン史上稀にみる最低のシーズンといわれ、選手たちの闘志にもやっと火が付いたのかもしれない。
 
　次に浮かぶキーワードは「本田」だ。本田圭佑はこのローマ戦、２アシストでミランの勝利に大きく貢献した。彼は本来、苦労しているミランを助けられる力を擁した選手だ。しかし、いろいろな理由から、ここ数か月はその力をチームに与えることができなかった。
 
　この――しかし、時すでに遅い――勝ち試合で、彼は主役に返り咲いたが、それは決して偶然ではない。本田の活躍とミランの勝利には、はっきりとした関連性がある。そのことはすでにシーズン頭の２か月でも分かっていたはずだが、ローマ戦で再び確認することができた。
 
　この試合の本田は、これまでの彼とは違っていた。アドリアーノ・ガッリアーニ副会長の言葉を借りるなら、アジアカップから帰ってきた後の本田は、またもや「双子の弟」だったのしれない。その差は歴然としていた。１対１で対峙する場面では敵をかわし、正確でタイミングの良いボールをゴール前に供給していた。
 
　また、彼はこれまであまり見せたことのないような、身体を使っての激しいプレーでボールを守り、敵からボールを奪っていた。これらが明確に分かるデータがある。この試合、本田は56回ボールに触れているが、それはミランで一番多い数であり、彼のドリブルの67パーセントが良い結果に繋がっていた。
 
　しかし、全て遅すぎた。本田の素晴らしいプレーも、もはや単なる慰めにしかならない。もちろん、計算上ではまだヨーロッパリーグ（EL）出場の可能性は数パーセント残っているものの、ミランが目標にたどり着けないことはほぼ確実だ。たった一度の良い試合だけで、これまでのひどいシーズンが覆るわけもない。
 
　この試合は、本田にとって来シーズンへの布石になったことは確かだろう。今後、ミランが誰の手に渡り、誰が監督になるのか分からないなかで、来シーズンが確約されている選手はひとりもいない。本田にしても、契約は2017年６月まで残っているが、ここミラノでは今、シーズン終了後に彼がミランを後にするのではという噂が流れている。
 
　本田がミランに来てからすでに１年半が経とうとしているが、その間、大活躍できたかといえば、決してそうではない。また、チャンピオンズ・リーグ（CL）を戦っていたCSKAモスクワから移籍してきたものの、ミランではCLどころかELにも出場できない。そんな状況で、彼が新たな可能性を求めて移籍を望んだとしても、全く不思議ではないだろう。
 
　もちろん、本田がミランに残る場合、誰が新たにベンチに座ろうと、新監督が彼を構想から外すとは思えない。本田がミランに来てから何度も監督が代わったが、その誰もが彼に多大な信頼を寄せていた。
 
　しかし本田に限らず、全ての選手にとって残留の妨げとなっているのは、何よりもモチベーションを上げられず、また保てないことだ。また本田の場合、CSKAからただで獲得しているため、もし他クラブに新天地を求めた際には移籍金がまるまるミランに入るという、クラブの財政事情も絡んでくる……。