【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の十「一流の基準」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年03月19日

『武士道』にも孟子にもつながる、エチャリのスカウティング基準。

現在、モイーズ監督(右)が率いるレアル・ソシエダで戦略スカウトを務めるエチャリ。育成・発掘の手腕に長け、その功績から「シャビ・アロンソのもうひとりの父」とも呼ばれている。(C)Getty Images

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 レアル・ソシエダの戦略スカウトとして敵チーム分析を任されるミケル・エチャリは、過去に同チームの強化部長、育成部長、ヘッドコーチなども歴任しており、「シャビ・アロンソのもうひとりの父」とも言われる。
 
 FIFA非公認だがバスク代表監督も務めたエチャリは、一流選手のスカウティング基準について明確に語っている。
 
「まず、人の悪口を言うような選手は大成しない。男らしさを育てる、それを理念に私は指導してきた」
 
 エチャリは簡潔に言う。
 
「私は監督ライセンスを与える教官もしたが、子どもたちを教える大人のコーチにも勝手な振る舞いを許さなかった。忘れてはならないのは、フットボールはチームスポーツだということ。もしも消防隊員が日頃から陰口を言い合い、仲違いをしているようなら、いざ火事場でも火を消し止められない。どんなに体力があろうと、俊敏であろうともね。ピッチの選手も同じだ。フットボールの根幹にあるのは技術でも戦術でもない。人と人の絆。仲間のためを思い、猶予なく決断し、戦えるか。それがすべてと言ってもいい」
 
 その選手は集団の一員として戦えるのか? その資質を見極めることが、まずは肝心だという。「ボールの触りが良い」、「俊足」、「空中戦が強い」などという能力は“些末なモノ”となる。戦いにおいて気骨を見せられるか、それは選手である前に“人間としての路”とも言える。
 
「義は武士の掟中、最も厳格なる教訓である。武士にとりて卑劣なる行動、曲がりたる振る舞いほど忌むべきものはない」
 
『武士道』において新渡戸部稲造は記しているが、これはエチャリが語るフットボーラーの心得にも大いに通じるだろう。
 
 高名な孟子は、「義は人の路なり」と説いている。義とは決断すべき心であって、それは自分にいささか不利になろうとも、勝負のため逡巡なく行動するということである。義の路を行くためにこそ勇を発し、その勇は猪突的な野蛮行為であってはならず、常に義のためにある。そして勇者とは寛容であり、仁の心に通じ、味方を思いやる徳、慈愛や憐憫を持つ。
 
 こうした武士道を体現するような選手は、チームのために身を投げうてる。少々混乱のなかにあっても、戦いに集中できる。エチャリの薫陶を受けたシャビ・アロンソはその代表格だろう。
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