昨年12月23日に行なわれたクラシコ（レアル・マドリー対バルセロナの伝統の一戦）は、玄人好みするフットボールの駆け引きに溢れていたが、局面を切り取るだけでも、何とも贅沢なゲームだった。
 
　ジネディーヌ・ジダン監督はこの一戦で、「フットボールをする」よりも、「フットボールをさせない」という戦術を選択した。その最たるものが、マテオ・コバチッチによるリオネル・メッシへのマンマークだろう。
 
｢どこに行こうが、メッシに付いていけ」
 
　ジダンはコバチッチに、こう指令を下している。とにかくメッシを潰せ――。そのため、イスコというファンタジスタをベンチに置き、コバチッチにメッシ封じを命じている。実際、この作戦はシーズン開幕前哨戦のスーペルコパ（合計スコア５-１で勝利）では功を奏したのだ。
 
　ところが、今回はメッシが一枚上だった。
 
　メッシは「フットボールをさせない」というマドリーの仕掛けに対し、「それなら、お前たちにもさせない」と躍起になることはなかった。
 
　この日、メッシは試合時間の83.1パーセントは歩いているだけだった。ポジションを取るためにジョグ程度に走ったのが10.8パーセント。つまり試合中、ほとんど走っていないのだ。
 
　しかし、ほとんど歩くだけで彼は、マドリーを粉砕してしまった。
 
　バルサの先制点、中央をドリブルで持ち込むイバン・ラキティッチの右脇にいたメッシは、ほんのわずか外側に移動することで、ラキティッチの前に立ち塞がることができたはずのコバチッチの位置をずらし、無力にした。これで独走したラキティッチから、セルジ・ロベルト、ルイス・スアレスと繋がり、得点は決まった。
 
　この後、攻めるしかなくなったマドリーは、コバチッチを下げ、攻撃の手を強めようとした。
 
　しかし、これで徹底マークから解放されたメッシは､フットボールを“裏切った”マドリーに鉄槌を下す。自由にボールを受けられるようになったメッシは、１人や２人では止められない。彼はマドリー守備陣を崩壊させ、０-３の勝利に貢献した。フットボールで勝利したのだ。