【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十七「機先を制する」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年09月24日

戦いの準備のところで頭脳を働かせられる選手が、その技術を十全に発揮できる。

クリスチアーノ・ロナウドらに連なるマドリーの「背番号7」のルーツとなるアマンシオ。「限られた選手にしか見えないコース、知り得ないタイミング」を知り尽くし、ゴールを重ねた。(C)Getty Images

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「限られた選手にしか見えないコース、知り得ないタイミングというのがある」
 
 そう語っていたのは、レアル・マドリーの伝説的選手で1960~70年代に活躍したアマンシオ・アマロだ。9度のリーガ・エスパニョーラ制覇、2度の得点王を経験。マドリー伝説の「背番号7」として、エミリオ・ブトラゲーニョ、ファニート、ラウール・ゴンサレス、クリスチアーノ・ロナウドのルーツとなっている。
 
 一流のストライカーは、敵DFの裏をかいたパスコースを、ステップを整えて身体の向きを変えるだけで生み出せるという。優れたパサーとさえ組んでいれば、そこにボールを流し込ませ、あっさりとゴールを決められる。心理的にも体勢的にも優位なストライカーは、GKと対峙した時も冷静に素早く、相手の動きを見切って、テンポをずらすだけで鮮やかな手並みで仕事を遂行する。
 
 あるいは、そのゴールはイージーに見えるかもしれない。
 
 しかしそこに至るプロセスは、目を瞠るものがある。ロマーリオやフィリッポ・インザーギがなぜ得点を量産できたのか? 彼らよりも速く、高く、あるいは同じくらい上手いストライカーはたくさんいた。しかしふたりはDFと対峙する直前、一瞬でも敵よりも有利な状況を作っていたのである。結局のところ、戦いの準備のところで頭脳を働かせられる選手が、その技術をも十全に発揮できるのだろう。
 
「戦わずして勝つ」
 
 そんな兵法に意訳してもいい。相手よりも優勢に立っていれば、負ける可能性は自ずと低くなる。
 
  攻撃者に備わるその能力は、守備者にも同様にあるだろう。
 
 例えば優れたGKはFWがシュートを撃つ前にコースを狭め、選択肢を少なくし、それによってストレスを与えられるという異能を持つ。タイプは違っても、マヌエル・ノイアー、イケル・カシージャス、ジャンルイジ・ブッフォン、ペトル・チェフ、ティボー・クルトワらはその有能者と言えるだろう。
 
 シュートを撃たれる前に、勝負を決めている。
 
「兵は機先を制する」とも言い換えられるが、先手において上回った場合、相手は自ずと後れを取る。
 
 それは個人×個人だけでなく、集団×集団の戦いにも当てはまるだろう。
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