【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十七「機先を制する」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年09月24日

駆け引きが戦術であり、その点はフットボールの基本。

シメオネ率いるアトレティコは、鳥栖との試合でも老獪さを発揮。相手の情報収集とその処理に思い切って時間を割き、その後の試合を優勢に進めるなど、駆け引きをないがしろにしなかった。(C)Getty Images

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 相手のやり方や特長を正しく読み取り、決闘に挑む。それはどんな場合も、戦いの常道である。もし情報が足りない場合は、スペインのクラブは相手の力量を測るためだけに、10~15分間を受け身に費やすことも厭わない。
 
 この夏、アトレティコ・マドリーが日本への遠征でサガン鳥栖と戦ったプレシーズンマッチは、好例だろう。ディエゴ・シメオネが率いたアトレティコは、序盤こそブロックを作って受け身で戦っている。それは(休暇明けかつ長旅後の時差ぼけで)選手のコンディションが十分ではなかったことは多分にあっただろうが、鳥栖という未知のチームの情報収集と処理のためだった。
 
 その結果、アトレティコは鳥栖の力を見通した。もたつく場面が幻だったかのように、15分を過ぎると完全に対応、試合を支配し続けている。
 
 こうした戦いの中にある機微こそが、「戦術」と世間でぼんやり言われるものの正体なのだろう。個人であっても、集団であっても、相手より上に立つための準備をする。また、相手が対応してくるのは織り込み済みで、その都度、対応をする。その駆け引きが戦術であり、その点はフットボールの基本と言える。そこでの知性が、チームやプレーヤーの価値を決めるのだ。
 
「もしチャンピオンになりたいなら、自信や信念は持つべきだろう。だが、決して過信はしてはならない。なぜなら、フットボールは生き物も同然であり、常に戦況は変わるからだ」
 
 これもまた、アマンシオが口にした金言である。
 
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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