「勝利」と「アイデンティティー」をもたらす新たなアイコン。
カントナとともにユナイテッドを支えたロイ・キーンも、次のように指摘する。
「カントナはどんな批判を受けようとも、動じない男だった。ズラタンにも似たようなところがある。強烈な個性を持っていることは、プレーからも分かる。そのパーソナリティーこそ、今のユナイテッドに決定的に欠けているファクターだ」
過激な発言に象徴されるように、カントナはその全身から独特のオーラを放っていた。敵を圧倒する実力の持ち主であり、ピッチに入れば威風堂々たるプレーでチームを引っ張った。
勝利のためには自己犠牲を厭わず、ストイックな一面も持ち合わせていた。最後までトレーニング場に残って技を磨き、ファーガソンをして、「あいつは人の指図を受けない人間だが、チームに大事なことを教えてくれた。完璧なプレーは練習でからしか生まれないということを」と言わしめた。
こうしたひたむきな姿に、ベッカムやギグスやスコールズが刺激を受け、「自分たちも、もっと練習して、もっともっと成長しないと――」と、切磋琢磨を続けていったのである。今でも、カントナ崇拝者の多い理由のひとつだ。
刺激的な発言を繰り返し、行き過ぎた情熱からトラブルを起こすこともあるイブラヒモビッチは、そんなカントナと姿が重なる。徹底的に勝利に拘るメンタリティーは、ユナイテッドに変革をもたらす起爆剤となるはずだ。
カントナは静かに語る。
「ズラタンへ、個人的に伝えたいメッセージがある。ユナイテッド入りを決めたことは、君にとってこれまでで最高の選択だ。『夢の劇場』に足を踏み入れて、そのピッチに立ったレジェンドたちの存在を感じてほしい」
「そして、サポーターが君を愛するのと同じくらい、彼らを愛するようになったら、オールド・トラフォードが君のいるべき場所、文字通りのホームになるだろう」
イブラヒモビッチは、ユナイテッドにとって単なる新戦力ではない。待望のエースストライカーというだけでもない。モウリーニョとともに「勝利」を、「アイデンティティー」をもたらす、新たなアイコンと言えるだろう。
文:サム・ウォレス
翻訳:田嶋コウスケ
【著者プロフィール】
サム・ウォレス Sam WALLACE/ロンドン在住。11年にわたり英紙『インディペンデント』でサッカー部門の主筆を務めた後、昨年10月に高級紙『デーリー・テレグラフ』と日曜版『サンデー・テレグラフ』のチームフットボールライターに就任した。サッカー番組への出演も多く、イングランドを代表する記者のひとりだ。
※『ワールドサッカーダイジェスト』2016年8月4日号の記事を加筆・修正
「カントナはどんな批判を受けようとも、動じない男だった。ズラタンにも似たようなところがある。強烈な個性を持っていることは、プレーからも分かる。そのパーソナリティーこそ、今のユナイテッドに決定的に欠けているファクターだ」
過激な発言に象徴されるように、カントナはその全身から独特のオーラを放っていた。敵を圧倒する実力の持ち主であり、ピッチに入れば威風堂々たるプレーでチームを引っ張った。
勝利のためには自己犠牲を厭わず、ストイックな一面も持ち合わせていた。最後までトレーニング場に残って技を磨き、ファーガソンをして、「あいつは人の指図を受けない人間だが、チームに大事なことを教えてくれた。完璧なプレーは練習でからしか生まれないということを」と言わしめた。
こうしたひたむきな姿に、ベッカムやギグスやスコールズが刺激を受け、「自分たちも、もっと練習して、もっともっと成長しないと――」と、切磋琢磨を続けていったのである。今でも、カントナ崇拝者の多い理由のひとつだ。
刺激的な発言を繰り返し、行き過ぎた情熱からトラブルを起こすこともあるイブラヒモビッチは、そんなカントナと姿が重なる。徹底的に勝利に拘るメンタリティーは、ユナイテッドに変革をもたらす起爆剤となるはずだ。
カントナは静かに語る。
「ズラタンへ、個人的に伝えたいメッセージがある。ユナイテッド入りを決めたことは、君にとってこれまでで最高の選択だ。『夢の劇場』に足を踏み入れて、そのピッチに立ったレジェンドたちの存在を感じてほしい」
「そして、サポーターが君を愛するのと同じくらい、彼らを愛するようになったら、オールド・トラフォードが君のいるべき場所、文字通りのホームになるだろう」
イブラヒモビッチは、ユナイテッドにとって単なる新戦力ではない。待望のエースストライカーというだけでもない。モウリーニョとともに「勝利」を、「アイデンティティー」をもたらす、新たなアイコンと言えるだろう。
文:サム・ウォレス
翻訳:田嶋コウスケ
【著者プロフィール】
サム・ウォレス Sam WALLACE/ロンドン在住。11年にわたり英紙『インディペンデント』でサッカー部門の主筆を務めた後、昨年10月に高級紙『デーリー・テレグラフ』と日曜版『サンデー・テレグラフ』のチームフットボールライターに就任した。サッカー番組への出演も多く、イングランドを代表する記者のひとりだ。
※『ワールドサッカーダイジェスト』2016年8月4日号の記事を加筆・修正