ブラジル・サッカー復活の鍵は“過去”にあり――第2回「キング・ペレ」

カテゴリ:連載・コラム

サッカーダイジェストWeb編集部

2016年07月05日

ブラジルが栄光を掴む時、高度な組織と突出したスターがいた。

欧州の高度な組織サッカーに順応した上で、ブラジルしか生み出せない才能が躍動すること――それがセレソン復権の近道であろう。 (C) REUTERS/AFLO

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 ペレはサッカーのルールにも大きな影響を与えた。
 
 66年イングランドW杯、ブラジルはグループステージ敗退で世界を驚かせることとなったが、これは相手の徹底したマークにより、その良さを消されたことが敗因だった。
 
 そのマークは、とりわけキーマンであるペレに対しては悪質なファウルとなり、彼は初戦のブルガリア戦で負傷。続くハンガリー戦では欠場を余儀なくされ、最終節のポルトガル戦では怪我を押して強行出場するも、結局試合途中でピッチを退いた。
 
 当時は、ファウルに対する明確な判定基準が設けられておらず、また選手交代というルールもなかったため、ブラジルが数的不利を強いられる一方で、相手には何もお咎めしという、まさに「やり得」の状況となっていた。
 
 これに対してペレは「W杯には二度と出場しない」と宣言。もちろん、これだけが原因ではないだろうが、続く70年大会でイエローカード&レッドカード、そして選手交代の導入が成されるきっかけとなったことは間違いない。
 
 サッカーとビジネスが結び付くようになる上でも、ペレの存在が大きな役割を果たしたといわれるが、そもそもサントスの世界ツアーは、ペレ人気にあやかり、入場料収入の少なさ(ホームスタジアムのキャパシティが小さかったため)をカバーするのが目的で始まったものだ。
 
 また、ペレ自身も己の価値を知り、商標権を得てビジネスを活発に行なったことで、多くの収入を手にすることとなった。今では当たり前のことだが、当時は革新的なことだった。
 
 ニューヨーク・コスモスでの引退の際には世界ツアーを敢行し、多くの観客をスタジアムに集めたペレ。日本でも77年9月に国立競技場で2試合を行なった。ちなみにサントスの一員としても、ペレは72年に来日を果たし、世界一のテクニックを披露している。
 
 これほどの選手であれば、欧州のビッグクラブが獲得を狙ったのは言うまでもない。レアル・マドリー、インテルは熱心に入団を働きかけ、ユベントスにいたっては白紙の小切手を渡し、好きな金額を書くよう促したというエピソードも残っている。
 
 それでも、ペレは「サントスを離れ難い」という理由で残留を決意。サントスもこれに応えて放出を拒否、さらにはブラジル政府が「ペレは“国宝”であり、輸出することは許されない」との声明を出したのである。
 
 引退後は、サッカー界のご意見番として今なお活躍する他、ユニセフの親善大使、実業家、俳優と、活動の範囲は多岐にわたっている。95年にはブラジルのスポーツ大臣に就任し、国務にも携わった。
 
 サッカーの歴史を変え、サッカー選手のステイタスを大きく向上させた歴史上の人物。このような二度とは出現しない偉人が存在したからこそ、ブラジル・サッカーはどん底から這い上がり、サッカー王国としての地位を確立できたのだろう。
 
 サッカーというスポーツにおいて、今や高度な戦術と11人のハードワークがなければ、勝者となることはできない。2年前の「ミネイロッソ(ミネイロンの悲劇)」は、大会一の組織力を誇るドイツに対し、個人の力に頼ったブラジルが、その“個”の核となる選手を欠いたことで起こった。
 
 ブラジルといえども、欧州で生まれた潮流に逆らうことは許されない。組織プレー、戦術は勝利の重要な要素である。しかし、全てのチームが高度な組織を備えた時、違いを出せるのは個の力である。
 
 ブラジルが栄光を掴み取った時にはいつも、戦術が浸透したまとまりの良いチームのなかに、突出したスターがいた。ペレ、ガリンシャ、ロマーリオ、ロナウド……。逆にこの存在がない時、ブラジルは地味に大会を後にすることが多い。
 
 2年前の夏以来、暗黒のトンネルを彷徨い続けているブラジル。これを抜け出すのは容易なことではないが、這い上がるためのヒントは、過去の偉人がすでに示しているのである。
 
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