ブラジル・サッカー復活の鍵は“過去”にあり――第2回「キング・ペレ」

カテゴリ:連載・コラム

サッカーダイジェストWeb編集部

2016年07月05日

17歳で作った数々の記録。そして決勝で披露した伝説のゴール。

17歳で母国を初の世界一に導いたペレ。こんな例は、他には存在しないだろう。 (C) Getty Images

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 9歳で誓いを立ててから、わずか8年で世界最高の舞台に立つこととなったペレ。もっとも、大会前に膝を痛めたこともあり、17歳の背番号10はグループステージのオーストリア戦(3-0)、イングランド戦(0-0)をベンチで観戦することとなった。
 
 そして最終節のソ連戦。スタメンのなかにペレの名前があった。58年6月15日、サッカー界の輝かしい伝説が始まったのである。
 
 順応性の高い少年は、この試合でW杯の雰囲気や戦いを理解し、続く準々決勝のウェールズ戦では、最初のゴール、しかも値千金の決勝点を挙げる。17歳と239日のことだった。
 
 準決勝でブラジルは、ジュス・フォンテーヌ、レイモン・コパ擁するフランスと真っ向勝負を演じて5-2の大勝利を飾るが、ペレはここでも決勝点をマーク。それだけではない。彼は52分のゴールを皮切りに、64分、75分と得点を重ね、ハットトリックを達成してみせた。
 
 開催国スウェーデンとの決勝戦を迎える頃、ペレは期待のホープではなく、初の世界制覇を狙うブラジルのキーマンとなっていた。それゆえ、これまで以上に徹底したマークを、この試合では受けることとなった。
 
 過去のW杯で、南米のチームが欧州で勝ったことはない。それは、欧州の組織サッカーが南米の個人技を封じたからといわれているが、南米のチームが感じる圧倒的なアウェー感も無関係ではなかったはずだ。
 
 ましてや今回は、開催国スウェーデンとの決勝。スタジアムは自国の優勝を願うファンで埋め尽くされていた。その雰囲気のなかで、ブラジルはニルス・リードホルムの技巧的なシュートでスウェーデンの先制を許してしまう。
 
 50年の忌まわしき記憶、54年スイスW杯でハンガリーに完膚なきまでに叩きのめされた悪夢が、ブラジル人の脳裏をよぎる。しかし、過去のブラジル代表と、今回の「セレソン」は全く違うチームだった。

 ジジ、ババ、ガリンシャ、マリオ・ザガロ、ジト、そしてペレらが軽やかなリズムを奏でながら、鮮やかなパスワークと曲芸的な個々のテクニックを織り交ぜて攻撃を展開するセレソンは、1点のビハインドなど全くものともしなかった。
 
 9分、32分とババがゴールを挙げてブラジルがリードを奪い返した後の55分、歴史的な一瞬が訪れる。
 
 左からのクロスをペレが胸でトラップ。寄せてきたベングト・グスタフソンに対し、ボールを浮かせて頭上を抜くと、そのままボレーでゴールネットを揺らしたのだ。
 
 17歳の少年による、高いテクニックと判断能力、そして創造性が生み出したスーパーゴールに、スウェーデン国民は度肝を抜かれた。試合はその後さらにブラジルが支配し、ザガロによる4点目の後、90分にはペレが頭でボールをコントロールし、GKの頭上を抜いた。
 
 開催国を圧倒し、見る者を魅了したブラジルが初戴冠! 歓喜の輪の中心には、ペレの姿があった。エドソン少年は、8年前の約束を、これ以上ないかたちで守ったのである。

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