「ディープ・ライング・プレーメーカー」と「可変システム」
山中:他で今シーズン戦術的なキーワードになったのは、「ディープ・ライング・プレーメーカー」や「可変システム」くらいですかね。
田邊:たしかにヨーロッパ側ではさかんに取り上げられました。
山中:あくまでもドーバー海峡の向こう側の話ですが(笑)。
田邊:今シーズンのプレミでは、ディープ・ライング・プレーメーカーというコンセプトで括れるサッカーをしたチーム自体が、あまり見受けられなかったかな。
山中:当時は「テクニカルターム(戦術用語)」自体が存在していませんでしたけど、ユナイテッドでキャリアの終盤に差し掛かっていた頃のポール・スコールズとか、シャビ・アロンソがいたベニテス時代のリバプールあたりまで、遡らなきゃならないような気はしますね。
田邊:アロンソはピルロやトニ・クロースなどとともに、今シーズン、深い位置に噛めるプレーメーカーというコンセプト自体が注目されるきっかけとなったキーマンですから。
でも皮肉なもので、今シーズンのリバプールなどは、チーム戦術と選手の特性がうまく噛み合わなかった典型例になってしまった。
山中:ジェラードという適任がいたのに、一発のサイドチェンジとか左右へのロングフィードは、明らかにロジャースが欲していなかった。ファンとメディアは、まさにジェラードが、そういうプレーをしてくれる場面を欲していたんですけど。
田邊:文脈は違いますけど、似たようなことはセスクについても言えるんじゃないですか?
仮に今シーズンのチェルシーが深くラインを敷いて、徹底的にカウンターを狙うようなサッカーをしていたら、セスクがプレミア版のディープ・ライング・プレーメーカーとしてクローズアップされていた可能性もある。でもチェルシーは前線からのプレッシングをベースにしていた。
山中:それは怪我がなかった場合のキャリックも同じでしょう。ファン・ハールが導入しようとしたカウンターベースの3バックがものになっていれば、キャリックは相当注目されていたと思います。でも残念ながらというか案の定というか、そんな展開にはならなかった。
田邊:結局この問題は、単なる戦術のトレンドである以上に、イングランドサッカーそのもののプレースタイルやカウンターの質、ゲームプランニングにも関わってくる一大テーマなんですよね。
山中:そう思います。それこそ人材育成の問題にも関わってくる。まあ、このテーマに関しては機会を改めるか、お互いにどこかで書きましょう。
田邊:了解です。それはそうと、さっき話に出た「可変システム」はどうなりました?
山中:すっかり忘れてました(笑)。プレミアのクラブは、あんな高尚なものをテストするレベルにはなかったというか。
試合の流れを受けて前半と後半でやむなくシステムを変えるとか、対戦相手によって戦術や面子を入れ替えるチームはもちろんありましたけど、オープンプレーの中で攻守でシステムを使い分けるなんて、必要性すら感じていなかったかと(笑)。
田邊:じゃあ、プレシーズンのツアーが始まったら、山中さんの方からモウリーニョに提案してみるのは?
山中:いや、僕的には仮に戦術が「固定」されていたとしても、ジョゼ流でいいんです。
それより田邊さんこそ、ウェストハム側に対して、自称イタリア風の「アラディーチェ(アラダイス監督)」が去ったんだから、本物の戦術家を監督に呼んでこいとリクエストした方がいいんじゃないですか?
ちょうどアンチェロッティの名前が挙がったりしているから、可変システムをやるには打ってつけでしょう。
田邊:いやいや、それはもっぱらタブロイドの連中が面白半分に書いていることで。うちはそれどこじゃないですよ。ウェストハムについては、次回のシーズン総括第2弾で、ちょっとだけ触れたいと思いますけど(笑)。
構成・文:田邊雅之
協力:山中忍
【識者プロフィール】
田邊雅之
1965年、新潟県生まれ。『Number』をはじめとして、学生時代から携わっていた様々な雑誌や書籍の分野でフリーランスとして活動を始める。2000年からNumber編集部に所属。プレミアリーグ担当として数々の記事を手がけた後、南アフリカW杯を最後に再びフリーランスとして独立。主な著書に『ファーガソンの薫陶』(幻冬舎)、翻訳書に『知られざるペップ・グアルディオラ』(朝日新聞出版)」等がある。最新の翻訳書は『ルイ・ファンハール 鋼鉄のチューリップ』(カンゼン)。贔屓はウェストハム。
山中忍
1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、チェルシーのサポーター。
田邊:たしかにヨーロッパ側ではさかんに取り上げられました。
山中:あくまでもドーバー海峡の向こう側の話ですが(笑)。
田邊:今シーズンのプレミでは、ディープ・ライング・プレーメーカーというコンセプトで括れるサッカーをしたチーム自体が、あまり見受けられなかったかな。
山中:当時は「テクニカルターム(戦術用語)」自体が存在していませんでしたけど、ユナイテッドでキャリアの終盤に差し掛かっていた頃のポール・スコールズとか、シャビ・アロンソがいたベニテス時代のリバプールあたりまで、遡らなきゃならないような気はしますね。
田邊:アロンソはピルロやトニ・クロースなどとともに、今シーズン、深い位置に噛めるプレーメーカーというコンセプト自体が注目されるきっかけとなったキーマンですから。
でも皮肉なもので、今シーズンのリバプールなどは、チーム戦術と選手の特性がうまく噛み合わなかった典型例になってしまった。
山中:ジェラードという適任がいたのに、一発のサイドチェンジとか左右へのロングフィードは、明らかにロジャースが欲していなかった。ファンとメディアは、まさにジェラードが、そういうプレーをしてくれる場面を欲していたんですけど。
田邊:文脈は違いますけど、似たようなことはセスクについても言えるんじゃないですか?
仮に今シーズンのチェルシーが深くラインを敷いて、徹底的にカウンターを狙うようなサッカーをしていたら、セスクがプレミア版のディープ・ライング・プレーメーカーとしてクローズアップされていた可能性もある。でもチェルシーは前線からのプレッシングをベースにしていた。
山中:それは怪我がなかった場合のキャリックも同じでしょう。ファン・ハールが導入しようとしたカウンターベースの3バックがものになっていれば、キャリックは相当注目されていたと思います。でも残念ながらというか案の定というか、そんな展開にはならなかった。
田邊:結局この問題は、単なる戦術のトレンドである以上に、イングランドサッカーそのもののプレースタイルやカウンターの質、ゲームプランニングにも関わってくる一大テーマなんですよね。
山中:そう思います。それこそ人材育成の問題にも関わってくる。まあ、このテーマに関しては機会を改めるか、お互いにどこかで書きましょう。
田邊:了解です。それはそうと、さっき話に出た「可変システム」はどうなりました?
山中:すっかり忘れてました(笑)。プレミアのクラブは、あんな高尚なものをテストするレベルにはなかったというか。
試合の流れを受けて前半と後半でやむなくシステムを変えるとか、対戦相手によって戦術や面子を入れ替えるチームはもちろんありましたけど、オープンプレーの中で攻守でシステムを使い分けるなんて、必要性すら感じていなかったかと(笑)。
田邊:じゃあ、プレシーズンのツアーが始まったら、山中さんの方からモウリーニョに提案してみるのは?
山中:いや、僕的には仮に戦術が「固定」されていたとしても、ジョゼ流でいいんです。
それより田邊さんこそ、ウェストハム側に対して、自称イタリア風の「アラディーチェ(アラダイス監督)」が去ったんだから、本物の戦術家を監督に呼んでこいとリクエストした方がいいんじゃないですか?
ちょうどアンチェロッティの名前が挙がったりしているから、可変システムをやるには打ってつけでしょう。
田邊:いやいや、それはもっぱらタブロイドの連中が面白半分に書いていることで。うちはそれどこじゃないですよ。ウェストハムについては、次回のシーズン総括第2弾で、ちょっとだけ触れたいと思いますけど(笑)。
構成・文:田邊雅之
協力:山中忍
【識者プロフィール】
田邊雅之
1965年、新潟県生まれ。『Number』をはじめとして、学生時代から携わっていた様々な雑誌や書籍の分野でフリーランスとして活動を始める。2000年からNumber編集部に所属。プレミアリーグ担当として数々の記事を手がけた後、南アフリカW杯を最後に再びフリーランスとして独立。主な著書に『ファーガソンの薫陶』(幻冬舎)、翻訳書に『知られざるペップ・グアルディオラ』(朝日新聞出版)」等がある。最新の翻訳書は『ルイ・ファンハール 鋼鉄のチューリップ』(カンゼン)。贔屓はウェストハム。
山中忍
1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、チェルシーのサポーター。