一般のファンを取り込む新たなリーディングチームが必要。
――ポストデフレ時代を生き抜くためにはどうすれば?
「そのヒントは、90年代前半にあると思います。一時期ではありますが、なぜ、90年代前半にJリーグが熱狂的な人気を博したのか。
当時、Jリーグはコアなファンだけではなく、一般のファンも取り込んでいました。当時の成功モデルをもう一度見直し、研究するべき時が来たのではないでしょうか」
――具体的な見解をお聞かせください。
「ヨーロッパの主要リーグも、プロ野球もそうですが、コアなファンだけではなく、一般のファンも多く獲得している大きな理由のひとつは、実力、圧倒的な知名度、全国的(世界的)な人気、話題性があり、リーグをけん引するリーディングチーム、強力なライバル関係にあるリーディングチームが存在しているからだと思います。
例えば、スペインならバルセロナやレアル・マドリー、ドイツならバイエルン・ミュンヘンやドルトムント、日本のプロ野球なら巨人や阪神がそれに当たるでしょう。そこには一流のプレーヤーが集結し、だれもが必ず知るスーパースターがいます。
しかし、今、Jリーグにはそうしたリーディングチームが見当たりません。日本では、カズ(三浦知良)やラモス(瑠偉)、北澤(豪)など多くの日本代表選手を輩出し、抜群の観客動員を誇ったリーディングチームの読売クラブ(著者・注/Jリーグ発足後の呼称は、ヴェルディ川崎→東京ヴェルディ)が、地域コミュニティ中心主義、平等主義、リーディングチーム排除主義のイデオロギーによって、大企業の親会社が撤収し、チームが縮小していきました。
こうした動きに引きずられるように、Jリーグは、一般のファンにとって魅力に欠けるものになっていったような気がします。それと連動してデフレ不況が長期間続いたせいで、広告収入面からもJリーグ全体が圧迫されていったのだと思います。
デフレ経済が深刻化した90年代後半から20年近くが経ちました。今、Jリーグが、コアなファンだけに支えられた特殊な仕組みの形になっているとすれば、今後のポストデフレ時代において、Jリーグは、AKB48と同様に窮地に陥る可能性があると思います。
もっとも、2015シーズンから、Jリーグが2ステージ制とポストシーズン(チャンピオンシップ)を復活させたのは良い傾向です。最後に優勝決定戦を行なうのは、一般のファンにとっては分かりやすい形なので、この動きには期待したいと思います。
景気が回復した際に、Jリーグが「一般ファン」を取り込めるかどうか。すべてのレジャー産業がライバルとなるなかで、Jリーグが魅力的なコンテンツであり得るのか。そこが大きな鍵になるでしょう」
≪本連載終了≫
解説:田中秀臣
PROFILE たなか・ひでとみ/上武大ビジネス情報学部教授。専門は日本経済思想史、日本経済論。リフレ派論客のひとりで、サブカルチャーにも詳しい。「日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉」(主婦の友社)、「AKB48の経済学」(朝日新聞出版)、「デフレ不況 日本銀行の大罪」(朝日新聞出版)など著書多数。
取材・文:石田英恒(スポーツライター)
「そのヒントは、90年代前半にあると思います。一時期ではありますが、なぜ、90年代前半にJリーグが熱狂的な人気を博したのか。
当時、Jリーグはコアなファンだけではなく、一般のファンも取り込んでいました。当時の成功モデルをもう一度見直し、研究するべき時が来たのではないでしょうか」
――具体的な見解をお聞かせください。
「ヨーロッパの主要リーグも、プロ野球もそうですが、コアなファンだけではなく、一般のファンも多く獲得している大きな理由のひとつは、実力、圧倒的な知名度、全国的(世界的)な人気、話題性があり、リーグをけん引するリーディングチーム、強力なライバル関係にあるリーディングチームが存在しているからだと思います。
例えば、スペインならバルセロナやレアル・マドリー、ドイツならバイエルン・ミュンヘンやドルトムント、日本のプロ野球なら巨人や阪神がそれに当たるでしょう。そこには一流のプレーヤーが集結し、だれもが必ず知るスーパースターがいます。
しかし、今、Jリーグにはそうしたリーディングチームが見当たりません。日本では、カズ(三浦知良)やラモス(瑠偉)、北澤(豪)など多くの日本代表選手を輩出し、抜群の観客動員を誇ったリーディングチームの読売クラブ(著者・注/Jリーグ発足後の呼称は、ヴェルディ川崎→東京ヴェルディ)が、地域コミュニティ中心主義、平等主義、リーディングチーム排除主義のイデオロギーによって、大企業の親会社が撤収し、チームが縮小していきました。
こうした動きに引きずられるように、Jリーグは、一般のファンにとって魅力に欠けるものになっていったような気がします。それと連動してデフレ不況が長期間続いたせいで、広告収入面からもJリーグ全体が圧迫されていったのだと思います。
デフレ経済が深刻化した90年代後半から20年近くが経ちました。今、Jリーグが、コアなファンだけに支えられた特殊な仕組みの形になっているとすれば、今後のポストデフレ時代において、Jリーグは、AKB48と同様に窮地に陥る可能性があると思います。
もっとも、2015シーズンから、Jリーグが2ステージ制とポストシーズン(チャンピオンシップ)を復活させたのは良い傾向です。最後に優勝決定戦を行なうのは、一般のファンにとっては分かりやすい形なので、この動きには期待したいと思います。
景気が回復した際に、Jリーグが「一般ファン」を取り込めるかどうか。すべてのレジャー産業がライバルとなるなかで、Jリーグが魅力的なコンテンツであり得るのか。そこが大きな鍵になるでしょう」
≪本連載終了≫
解説:田中秀臣
PROFILE たなか・ひでとみ/上武大ビジネス情報学部教授。専門は日本経済思想史、日本経済論。リフレ派論客のひとりで、サブカルチャーにも詳しい。「日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉」(主婦の友社)、「AKB48の経済学」(朝日新聞出版)、「デフレ不況 日本銀行の大罪」(朝日新聞出版)など著書多数。
取材・文:石田英恒(スポーツライター)