「一人ひとりの細かな技術の積み上げでチームが強くなる」

今季のチームの戦いぶりを振り返ってくれた島岡監督。延長・PK戦になっても勝利を信じていた。写真:滝川敏之

島岡監督も選手たちと喜びを分かち合った。今季限りで退任することとなったが、これからも「サッカーで人を幸せにしていきたい」と語った。写真提供:南葛SC
シーズンを振り返って、改めて思うことが島岡監督にはある。
「一人ひとりの細かな技術の積み上げでチームが強くなる。その変化を、成長を体感できたシーズンでした。名古屋では風間さんのもとで3年間、指揮は執らずに横でサポートしながら技術の大切さを学びました。その学んだことを監督として実践させてもらったのが南葛SCです。実践させてもらったこと自体が代えがたい財産になったんですが、技術を細かく追求することで一人ひとりのプレーが変わっていくのが見えたんです。具体的に言うと、選手たちの“見えるところが変わった”。見えるところが変わったことでプレーが変わっていきました。今まで見えなかったところや見ようとしなかったところに気付き、これまでやっていなかったプレーやできなかったプレーができるようになった。そんな一人ひとりの広がりが重なり、チームにも広がりをもたらしてくれたんです」
教えて分かることではなく、選手一人ひとりが気付いてこそ達せられる境地がある。監督として選手の気付きを促すことは簡単ではない。気付かせるマニュアルや方程式があれば苦労しない。島岡監督自身、これまでの指導者人生で「なんで分からないんだ」と言ってしまっていた時期もあったという。だが南葛SCで少しは気付かせることができた。それは自分の成長を実感した瞬間でもあった。
「かつての自分と比べて、今の自分はもう少し丁寧に伝えられることは増えたと思います。それは自分の今後にもプラスになりました。ただ、もっともっと細かな部分を要求できるようにならないといけないなとも思いますが」
2020年12月7日、南葛SCの公式サイトで島岡健太監督の退任が突如報じられた。
「『ボールは友だち』『ワクワクするサッカー』を目指し、ピッチでサッカーが大好きな選手たちとサッカーに向き合い、意志の通じ合うスタッフとともに、支えてくれるすべての方々の熱を感じながら、本当に楽しい1年を過ごすことができました」(公式サイトのメッセージより)
シーズン前からシーズン後まで、目指すべきサッカーを貫き通した1年間。そして導いたクラブ宿願の関東リーグ昇格。ただ1点、惜しむらくは「ワクワクするサッカー」をサポーターと共有できなかったことだ。
「監督就任当初は、サポーターのみなさんに試合会場へ足を運んでいただき、選手やプレーを見てみんなでワクワクして語り合える姿を想像していたし、その先に目指すべきクラブ像がありました。それがかなわなかった点は残念でしかありません。でも、ライブ配信やSNSなどの反応から後押ししてくださっていた身近さはすごく感じていて。僕もそんなみなさんの支えを背に、今日が最後になるかもしれないという覚悟で毎試合ベンチに立っていましたし、みなさんがいたから今日よりいい明日があるって信じてこれました。本当に感謝しかないです」
「考えるとグッとくるものがあるんですけど」と語る島岡監督の目は、心なしか赤くなっていた。
「1年間立石に住んで、自粛期間明けにスタッフと気晴らしで外食に出た時も『お願いします!』と声をかけられて。『監督、なんとか南葛SCを……信じてます』って(笑)。今シーズン南葛SCでできたように、サッカーボールといっしょにいろんな人と触れ合って、細かな技術について伝えたい、広めたい、つなげていきたい。サッカーで人を幸せにする。それが自分の生き方だなと。背中を押してくださったみなさんに今後、『なにやってんだ、あいつ』って言われないようにがんばります(笑)」
Jリーグ入りを目指す南葛SCにとって、2020年のシーズン、そして島岡健太監督の名は忘れられない歴史として、深く刻まれたことは間違いない。
※このシリーズ了
取材・文●伊藤 亮
「一人ひとりの細かな技術の積み上げでチームが強くなる。その変化を、成長を体感できたシーズンでした。名古屋では風間さんのもとで3年間、指揮は執らずに横でサポートしながら技術の大切さを学びました。その学んだことを監督として実践させてもらったのが南葛SCです。実践させてもらったこと自体が代えがたい財産になったんですが、技術を細かく追求することで一人ひとりのプレーが変わっていくのが見えたんです。具体的に言うと、選手たちの“見えるところが変わった”。見えるところが変わったことでプレーが変わっていきました。今まで見えなかったところや見ようとしなかったところに気付き、これまでやっていなかったプレーやできなかったプレーができるようになった。そんな一人ひとりの広がりが重なり、チームにも広がりをもたらしてくれたんです」
教えて分かることではなく、選手一人ひとりが気付いてこそ達せられる境地がある。監督として選手の気付きを促すことは簡単ではない。気付かせるマニュアルや方程式があれば苦労しない。島岡監督自身、これまでの指導者人生で「なんで分からないんだ」と言ってしまっていた時期もあったという。だが南葛SCで少しは気付かせることができた。それは自分の成長を実感した瞬間でもあった。
「かつての自分と比べて、今の自分はもう少し丁寧に伝えられることは増えたと思います。それは自分の今後にもプラスになりました。ただ、もっともっと細かな部分を要求できるようにならないといけないなとも思いますが」
2020年12月7日、南葛SCの公式サイトで島岡健太監督の退任が突如報じられた。
「『ボールは友だち』『ワクワクするサッカー』を目指し、ピッチでサッカーが大好きな選手たちとサッカーに向き合い、意志の通じ合うスタッフとともに、支えてくれるすべての方々の熱を感じながら、本当に楽しい1年を過ごすことができました」(公式サイトのメッセージより)
シーズン前からシーズン後まで、目指すべきサッカーを貫き通した1年間。そして導いたクラブ宿願の関東リーグ昇格。ただ1点、惜しむらくは「ワクワクするサッカー」をサポーターと共有できなかったことだ。
「監督就任当初は、サポーターのみなさんに試合会場へ足を運んでいただき、選手やプレーを見てみんなでワクワクして語り合える姿を想像していたし、その先に目指すべきクラブ像がありました。それがかなわなかった点は残念でしかありません。でも、ライブ配信やSNSなどの反応から後押ししてくださっていた身近さはすごく感じていて。僕もそんなみなさんの支えを背に、今日が最後になるかもしれないという覚悟で毎試合ベンチに立っていましたし、みなさんがいたから今日よりいい明日があるって信じてこれました。本当に感謝しかないです」
「考えるとグッとくるものがあるんですけど」と語る島岡監督の目は、心なしか赤くなっていた。
「1年間立石に住んで、自粛期間明けにスタッフと気晴らしで外食に出た時も『お願いします!』と声をかけられて。『監督、なんとか南葛SCを……信じてます』って(笑)。今シーズン南葛SCでできたように、サッカーボールといっしょにいろんな人と触れ合って、細かな技術について伝えたい、広めたい、つなげていきたい。サッカーで人を幸せにする。それが自分の生き方だなと。背中を押してくださったみなさんに今後、『なにやってんだ、あいつ』って言われないようにがんばります(笑)」
Jリーグ入りを目指す南葛SCにとって、2020年のシーズン、そして島岡健太監督の名は忘れられない歴史として、深く刻まれたことは間違いない。
※このシリーズ了
取材・文●伊藤 亮