「今の願い? 誰の目も気にせず、妻と娘とゆっくりゴンドラに乗ることだ」
マラドーナに同時代のライバルは存在しなかった。常に比較され続けて来たのは、一時代前に王様と崇められたペレ。結審が下ることのない論争は、きっと永遠に続くはずだ。
生まれながらにボールと友だちだった天才は、きっと最後の最後まで純粋なサッカー小僧だった。たぶんマラドーナは、心の赴くままに人生を歩んできた。だが世の中の方が、無垢な天才を歪めていった。
ただし多くのファンは、マラドーナの破天荒な生きざまはともかく、そのプレーは何度も見たいと願った。だからこそ彼のような天才を守るためにカードも厳格化され、90年ワールドカップは史上類を見ないほど大量のイエロー、レッドが提示された。
思えばマラドーナは、いつでもチームの勝ち負けをひとりで背負い込んだ。ナポリは名門クラブではないし、アルゼンチンも大国とは言えない。単独で何人もの相手を翻弄し道を切り拓くから伝説が積み上げられた。
「今の願い? 誰の目も気にせず、妻と娘とゆっくりゴンドラに乗ることだ」
絶えず喧噪の中にいる天才が、当時洩らした本音である。
やっとディエゴは安らかな場所に辿り着いた。これからも彼のプレーに感嘆し続けて来た歴史の生き証人たちは、VARなき時代の英雄についてずっと語り続けるはずだ。
文●加部 究(スポーツライター)
生まれながらにボールと友だちだった天才は、きっと最後の最後まで純粋なサッカー小僧だった。たぶんマラドーナは、心の赴くままに人生を歩んできた。だが世の中の方が、無垢な天才を歪めていった。
ただし多くのファンは、マラドーナの破天荒な生きざまはともかく、そのプレーは何度も見たいと願った。だからこそ彼のような天才を守るためにカードも厳格化され、90年ワールドカップは史上類を見ないほど大量のイエロー、レッドが提示された。
思えばマラドーナは、いつでもチームの勝ち負けをひとりで背負い込んだ。ナポリは名門クラブではないし、アルゼンチンも大国とは言えない。単独で何人もの相手を翻弄し道を切り拓くから伝説が積み上げられた。
「今の願い? 誰の目も気にせず、妻と娘とゆっくりゴンドラに乗ることだ」
絶えず喧噪の中にいる天才が、当時洩らした本音である。
やっとディエゴは安らかな場所に辿り着いた。これからも彼のプレーに感嘆し続けて来た歴史の生き証人たちは、VARなき時代の英雄についてずっと語り続けるはずだ。
文●加部 究(スポーツライター)