【黄金の記憶】風雲児・稲本潤一はアーセナルでなにを迷い、なにを決断したのか

カテゴリ:Jリーグ

川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

2020年05月06日

「練習場に着いたらコーチが家に帰れと。そっからはもうバタバタですよ」

急転直下の展開で決まったガラタサライへの移籍。欧州サッカービジネスの最前線を見た、と振り返る。(C)Getty Images

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 フルアムでの2シーズンを終えた直後だった。
 
 ジーコジャパンの英国遠征、稲本はイングランド戦で腓骨を骨折する大怪我を負ってしまう。濃厚だったガンバからの完全移籍は叶わず、レンタル契約の更新もなし。宙ぶらりんとなった稲本は2004年8月、一時的にガンバへ籍を戻すことになる。Jリーグの夏の登録期限が迫っていたからだ。日本復帰の可能性が俄然、現実味を帯びていた。
 
 そんななか、8月27日にオファーを出してくれたのがバーミンガムの古豪、ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン(WBA)だった。怪我をしているのを承知でオファーをくれたのだ。意気に感じた稲本は、熟考の末に決断する。ガンバからの完全移籍が決定した。
 
 2004-2005シーズン後半には、期限付き移籍で2部のカーディフ・シティへ。半年後に復帰したが、WBAは2005-2006シーズンに降格の憂き目に遭ってしまう。ブライアン・ロブソン監督との信頼関係は、最後まで築けないままだった。

 
 2006年8月31日。欧州の移籍マーケットがクローズされるギリギリのタイミングで、稲本はトルコの名門、ガラタサライへ移籍する。この最終日特有のドタバタ劇を当事者として経験した日本人選手は、稲本が最初だった。
 
「ブライアン・ロブソンさんに、出たいなら出てもいいぞと言われてた。そうか、必要な戦力やないんやなと。でもオファーがあったわけじゃないから、普通にリザーブの練習に行こうと家を出た。それが8月30日。練習場に着いたらコーチが家に帰れと。すると、エリック・ゲレツさんっているじゃないですか。あの方が新しくガラタサライの監督になって僕が欲しいと言ってると聞いた。直接電話がかかってきて、PSVの監督時代から興味を持ってくれてたみたいで。そっからはもうバタバタですよ」
 
 最初はそのまま30日にイスタンブール入りしてメディカルチェックを受ける予定だったが、ガラタサライ側の都合で31日にずれ込んだ。稲本獲得を決めたため、契約寸前だったポーランド人選手を帰さなければいけなくなったらしく、空港でバッティングしないよう日程をずらしたのだ。
 
 稲本はロンドンの空港で一夜を過ごし、空路イスタンブールへ。「メディカルから契約まで速攻ですよ。ホンマにギリギリのタイミング。ヨーロッパのサッカービジネスの最前線を体感した」と振り返る。
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