【安永聡太郎】「バルサより再現性の質が高い」レアル・ソシエダ躍進の秘密を戦術的に徹底解剖!

カテゴリ:連載・コラム

木之下潤

2020年04月30日

2人のピボーテの特徴によって戦い方を変える

ソシエダに再現性の高いサッカーを植え付けたのが、このアルグアシル監督だ。(C)Getty Images

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 前半、ソシエダは相手の出方をうかがうようにボールを動かします。自陣で自分たちがボールを持ったときに、まず「相手がどのようなプレスをかけてくるか」をしっかりと観察するようにパスを回すのです。

 具体的にいうと、ボールをGKに渡してCBが深い立ち位置を取り、SBが広がることで「こうすると、相手はこういう守備パターンで来るかな」という状況を意図的に作り出しています。「今日のマークの仕方は、こういうことみたい」という探り方をするのです。そうやって相手の出方を見ながら、「今日はビボーテ(ボランチ)がこういう下り方をして前進するよ。だから、ウーデゴーはここまで下がってこないでね」みたいな感じで、持っているプランの中から有効な形を選択します。

 相手のファーストライン、セカンドライン、最終ラインの作り方。ファーストラインがどうプレスをかけ、セカンドラインがどう対応するか。最終ラインは誰が誰をマークし、どういう出方をしているか…。前半の早いうちに自分たちの戦い方=「今日の方針」を決めるために、丁寧に「サリーダ・デ・バロン」を実践します。

 例えば、「今日はウーデゴーを生かすプランだよ」という戦術が決まれば、ボールを回しながら相手を動かし、「今だ!」というタイミングで彼が下りてきます。そこには「ボールを奪われない」とチーム全体が共有する彼への信頼という背景があり、周囲もウーデゴーにスペースとプレー時間を与えるような立ち位置を取ります。そうすることで、このレフティを活用した攻撃の仕組みを意図的に作り出しています。このプランの場合、周囲の選手の立ち位置はサポートとしての優先順位が低くなり、より前進という選択がなされています。

 他にも、ピボーテがスベルディアか、ゲバラかによって「サリーダ・デ・バロン」の方法も少し傾向が変わります。もちろん事前の対戦相手のスカウティングによってどちらかを選んでいることが大前提です。例えば、GKにボールが渡ったとき、いつもピボーテが2CBの間に入るわけではなく、相手によっては2CBの脇にも立ち位置を取ります。

 ここがアルグアシル監督の凄さだと思うのですが、2人の選手の特徴によって戦い方の傾向を変えています。

 おそらくスベルディアはCBからピボーテになった選手です。彼が入った場合はやり方をシンプルにして、2CBの間に下げることが多いし、難しいことをさせません。一方のゲバラはずっと中盤の選手で、ある程度足下の技術も備わっているのでCBの脇に立ち位置を取らせる傾向があります。

 そして、ボールの持ち出しをCBではなく、彼にやらせることが多い。対戦相手の守備によってもピボーテの下り方や位置が変わるため、同時に前線の選手たちも配置や立ち位置を適応させています。選手の特徴によっても細かく戦術を浸透させるのは、簡単にできることではありません。
 
 後方からの「サリーダ・デ・バロン」の基本的な立ち位置は、2CBが開き、その前にピボーテがいて、インテリオール(インサイドハーフ)の2枚は後ろに下がらず、両SBが高い位置に上がって「2-1-4-3」を形作ります。そこから相手の守備の仕方によってピボーテが下りて最終ラインが「3」になり、中盤のミケル・メリーノが下りてきて、元いたスペースにオジャルサバルが入ってくる「3-1-4-2」になったりするなど全体の陣形も変化します。

 この「サリーダ・デ・バロン」も相手チームの出方によって全員が立ち位置を変化させ、結果的に可変システムの状態を生んでいます。だから、相手チームもさっきまでマークについていたはずなのに捕まえきれなくなったりすることが多々起こります。実際に、シーズン中は相手がそうして混乱しているシーンを何度も見かけました。

 彼らは、この「サリーダ・デ・バロン」をセットプレーがごとくスーッと実行するんです。

 しかし、これを実践するためには、全員にポジショナルプレーが要求されるので、当然ボールに触る回数が少なくて、立ち位置の微修正を繰り返してポジションをキープしないといけない選手が現われます。やはりポジショナルプレーには、我慢と献身性を両立することが不可欠です。ただ、今シーズンのソシエダには、それを実践できる資質を備えた選手が揃っています。

 ボールを運ぶこと、味方のスペースを作るために立ち位置を取ること、味方に時間を作るためにランニングすること、ボール保持者が時間を作っている間に正確な立ち位置を取り直すことなど、資質の条件を挙げだしたら切りがありませんが、確実に言えることはそれぞれのポジションに必要な適切なプレーを各々が実践できるスキルを持ち合わせていたことです。

 だからこそ「サリーダ・デ・バロン」の再現性の質が高かったのだと思います。
 

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