シメオネによる二段構えのアプローチ。
哲学やコンセプトの観点に立てば、サッカーは常にここまで見てきた二つの旗印(グアルディオラ型かモウリーニョ型)のせめぎ合いであり続けるだろう。しかし実戦の戦術レベルにおいて、ここ数年のピッチ上で起こっている動向に目を向けると、話は少なからず変わってくる。
その点でいまもっとも注目を集めているのは、グアルディオラに代表されるボールポゼッションについての新しい考え方だ。
なにより顕著な特徴は、ピッチ上におけるプレーヤーの配置と陣形において、チーム全体を単一の静的な数字で表わす「システム」という考え方に、捉われていない点にある。
ピッチ上のプレーヤーの配置とそれに基づくプレーの展開は、4-4-2や4-3-3、4-3-1-2など全体を表わす一つの「システム」を基準としてではなく、トライアングルやロンボ(菱形)といった、もっと小さくてダイナミックな「ユニット」をベースに考えられている。
プレーヤーが攻撃を組み立て、あるいは相手の攻撃を妨げる基準点となるのが、システムではなく小さなユニットになってきているのだ。その結果、プレーの流れを素早く的確に読み取り、周囲の選手と柔軟にポジションを入れ替えながらプレーできる、高いテクニックを備えたポリバレントで頭脳的なプレーヤーに対する需要が高まっている。
またGKには単にゴールを守るだけでなく、ビルドアップにおいて三角形や菱形の一端を担う足下のテクニックとパスワークが要求されてきているのだ。
攻撃のプロセスも、ビルドアップ、崩し、フィニッシュという3段階ではなく、ボールポゼッションを前提として、ボール支配の確立、崩しの準備、崩しとフィニッシュという3段階で捉えられる。そこにおいてボールポゼッションは、以下の4つの目的を達成するための重要な手段と位置づけられる。
1)敵をシステマチックに動かす(ボールの配給を目的とするのではなく、ボールを使って相手を動かし、崩し、そしてボールロスト時の即時奪回に適した状況を作り出す)。
2)プレーのリズムを落とす(ボールを横方向に動かし、フィジカル的な負荷の大きい前後方向へのダッシュやスプリントの回数を抑制する)。
3)メンタル的なエネルギーの消耗を抑える(ボールと主導権を保持するほうが、それを追い回すよりもストレスがはるかに小さい)。
4)相手のボール保持時間を削減する(それだけ失点のリスクが減少する。イングランドではこれを「パッセナッチョ=パスとカテナッチョを掛けた造語」と呼んで揶揄している)。
その点でいまもっとも注目を集めているのは、グアルディオラに代表されるボールポゼッションについての新しい考え方だ。
なにより顕著な特徴は、ピッチ上におけるプレーヤーの配置と陣形において、チーム全体を単一の静的な数字で表わす「システム」という考え方に、捉われていない点にある。
ピッチ上のプレーヤーの配置とそれに基づくプレーの展開は、4-4-2や4-3-3、4-3-1-2など全体を表わす一つの「システム」を基準としてではなく、トライアングルやロンボ(菱形)といった、もっと小さくてダイナミックな「ユニット」をベースに考えられている。
プレーヤーが攻撃を組み立て、あるいは相手の攻撃を妨げる基準点となるのが、システムではなく小さなユニットになってきているのだ。その結果、プレーの流れを素早く的確に読み取り、周囲の選手と柔軟にポジションを入れ替えながらプレーできる、高いテクニックを備えたポリバレントで頭脳的なプレーヤーに対する需要が高まっている。
またGKには単にゴールを守るだけでなく、ビルドアップにおいて三角形や菱形の一端を担う足下のテクニックとパスワークが要求されてきているのだ。
攻撃のプロセスも、ビルドアップ、崩し、フィニッシュという3段階ではなく、ボールポゼッションを前提として、ボール支配の確立、崩しの準備、崩しとフィニッシュという3段階で捉えられる。そこにおいてボールポゼッションは、以下の4つの目的を達成するための重要な手段と位置づけられる。
1)敵をシステマチックに動かす(ボールの配給を目的とするのではなく、ボールを使って相手を動かし、崩し、そしてボールロスト時の即時奪回に適した状況を作り出す)。
2)プレーのリズムを落とす(ボールを横方向に動かし、フィジカル的な負荷の大きい前後方向へのダッシュやスプリントの回数を抑制する)。
3)メンタル的なエネルギーの消耗を抑える(ボールと主導権を保持するほうが、それを追い回すよりもストレスがはるかに小さい)。
4)相手のボール保持時間を削減する(それだけ失点のリスクが減少する。イングランドではこれを「パッセナッチョ=パスとカテナッチョを掛けた造語」と呼んで揶揄している)。
攻撃の局面に関して、ボールポゼッションの重要性が再解釈、再評価されている一方で、守備の局面に関しては、戦術的に興味深い事象が起こっている。
とりわけ、ディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリーの躍進は、自陣でのローラインプレスによる守備を土台として、ボール奪取後の迅速なロングカウンターを単にフィニッシュを目的とするだけでなく、敵陣でのボールロストとその後の再奪回(今度はショートカウンターにつなげるため)を準備するプロセスとして再評価する視点をもたらした。
シメオネの発想はシンプルで天才的だった。相手にボールと主導権をプレゼントして、自軍の意識を守備とボール奪取後の素早い逆襲に集中させ、そこで決定的な違いを作り出す戦い方だ。
カウンターアタックがすぐに成功しなくとも、そこで失ったボールを今度はアグレッシブなハイプレスで即時奪回して、そこから一気にショートカウンターでフィニッシュに持ち込む二段構えのアプローチは、シーズンを通してアトレティコのサッカーを、どんな相手にも脅威を与えるきわめて効果的なものにした。
最後に付け加えれば、戦術の最先端において大きな位置を占めるだけでなく、おそらくさらなる進化の可能性をもっとも大きく持っているのは、セットプレーだ。これは通常のプレーとはまったく異なる文脈を試合の中に作り出せる特別な機会であり、通常の戦術とは独立して研究・開発されるべき「試合の中のもうひとつの試合」である。
文:マッシモ・ルッケージ
翻訳:片野道郎
著者プロフィール
マッシモ・ルッケージ/イタリア人のサッカー戦術アナリスト。数多くの指導書や戦術書を執筆。その分析対象はヨーロッパ全域に及ぶ。1968年1月25日生まれ。
※ワールドサッカーダイジェスト2014.11.6号より
とりわけ、ディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリーの躍進は、自陣でのローラインプレスによる守備を土台として、ボール奪取後の迅速なロングカウンターを単にフィニッシュを目的とするだけでなく、敵陣でのボールロストとその後の再奪回(今度はショートカウンターにつなげるため)を準備するプロセスとして再評価する視点をもたらした。
シメオネの発想はシンプルで天才的だった。相手にボールと主導権をプレゼントして、自軍の意識を守備とボール奪取後の素早い逆襲に集中させ、そこで決定的な違いを作り出す戦い方だ。
カウンターアタックがすぐに成功しなくとも、そこで失ったボールを今度はアグレッシブなハイプレスで即時奪回して、そこから一気にショートカウンターでフィニッシュに持ち込む二段構えのアプローチは、シーズンを通してアトレティコのサッカーを、どんな相手にも脅威を与えるきわめて効果的なものにした。
最後に付け加えれば、戦術の最先端において大きな位置を占めるだけでなく、おそらくさらなる進化の可能性をもっとも大きく持っているのは、セットプレーだ。これは通常のプレーとはまったく異なる文脈を試合の中に作り出せる特別な機会であり、通常の戦術とは独立して研究・開発されるべき「試合の中のもうひとつの試合」である。
文:マッシモ・ルッケージ
翻訳:片野道郎
著者プロフィール
マッシモ・ルッケージ/イタリア人のサッカー戦術アナリスト。数多くの指導書や戦術書を執筆。その分析対象はヨーロッパ全域に及ぶ。1968年1月25日生まれ。
※ワールドサッカーダイジェスト2014.11.6号より