【回想コラム】香川真司が直面した代表キャリアでの葛藤とU-19日本代表の苦難の始まり

カテゴリ:日本代表

浅田真樹

2014年10月08日

世代間で苦しんだ香川。強化へこの経験を生かせるか。

後にマンチェスター・ユナイテッド入りする香川も、代表では苦悩の日々が続いた。(C) SOCCER DIGEST

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 香川本人は当時、こんなことを話している。
「いまはA代表に入っているけど、自分のなかで定着したとは思ってない。前回(07年)のU-20ワールドカップには、あまり出られなかったし、自分は国際経験も少ない。だから、この年代のワールドカップに出られるのは自分にとっても大きなこと。自分のレベルを上げるために、もっと世界のチームと戦いたいし、試合に出て自分の力を試したい」
 
 少なくとも香川自身は、年代別代表を軽視してはいなかった。むしろそこでプレーし、世界の舞台に立つことを切望していた。
 
 だからこそ、私はグループリーグ途中であまりに応対の悪いチームを見て、無為と知りつつ香川にこんな質問を投げかけた。準々決勝まで残るという選択肢はありえないことなのか、と。
 
「準々決勝が一番大事な試合ですから、出たい気持ちもあるけど……。チームが決めたことなので、僕は何とも言えません」
 
 もちろん、日本協会の決定が覆されるはずもなく、グループリーグ最後のサウジ戦を終えると、香川は「粘り強く戦ってくれることを期待している」という言葉を残し、ひとりチームを離れ、帰国の途に就いた。
 
 だが、香川の願いも虚しく、日本が完敗を喫したのはすでに前述した通りである。
 
 U-19代表がU-20ワールドカップへの出場権を逃した10日後、香川はA代表の一員としてカタール・ドーハにいた。
 
 カタール戦前日、公式練習が終わったところで私は香川を呼び止め、準々決勝は観たかと尋ねると、「協会スタッフがDVDを用意してくれたので」と香川。その感想は「腰が引けていてパスがつなげていなかった。怖がっているように見えた」。香川は心底残念そうに話していた。
 
 しかも翌日、カタール戦を前に発表された先発メンバーに、いや、控え選手のなかにすら、香川の名前はなかった。ならば、U-19代表に専念させたほうが、香川本人のためにも、日本サッカーの未来のためにも、よほど有益だったのではないか。そんな疑念を強く抱かざるを得ない、不条理な結末だった。
 
 しかし、香川がこうした苦い経験を味わうのは、これが最後ではなかった。2年後、ワールドカップに臨む23人枠から漏れた香川は、バックアップメンバーのひとりとして南アフリカへ渡った。様々な事情に翻弄され、目標を絞りきれずにきた結末がこれである。
 
 試合に出られる可能性はゼロと知りながら、チームに帯同する辛さはいかほどか。香川の心の内を探ろうと声をかけた。日本がカメルーンに勝利した直後のことである。
「やっぱり悔しいし、チームが勝つのはいいことですけど、なんかしっくりこないですね」
 
――素直に喜べない?
「うーん、難しいですけど……、来た以上は割り切ってやらないといけないと思っています」
 
――割り切ると言っても、この状況を受け入れるのは簡単ではないと思うが。
「でも、ワールドカップっていう舞台は特別だって改めて感じているし、4年後、自分がその舞台に立った時をイメージしながらポジティブに捉えています」
 
――ポジティブに捉えられる?
「正直難しいですけど」
 
 そう言って、苦笑いを浮かべた香川。“大人の事情”に振り回される21歳の姿がそこにはあった。

C大阪の主力として活躍する南野は、現U-19代表の攻撃を牽引する存在。4大会ぶりのU-20ワールドカップ出場に導けるか。(C) SOCCER DIGEST

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 さて、再び話を現在に戻そう。今年3月、U-21代表対U-19代表の練習試合が行なわれた。2年後のリオデジャネイロ五輪と、来年のU-20ワールドカップをそれぞれ目指す、年代別代表同士の一風変わったテストマッチである。
 
 A代表のザッケローニ監督も視察に訪れるなか、“世代間闘争”でひと際存在感を放っていたのは、U-19代表の南野拓実だった。
 
 昨季からC大阪の主力として活躍する19歳は、実力的に考えれば、すでにU-21代表でプレーしていても不思議はない。年齢を越えた実力を備え、代表チーム間での綱引きになりかねない様子は、C大阪の先輩、香川が置かれていた状況と重なって見える。
 
 めだかの中に鯉を一匹泳がせておくことが、南野自身の成長を第一に考えるなら賢明な判断には思えない。それでもいまは、ひとまずU-19代表に専念させるという方針が日本協会内で確認されている。
 
 そこには6年前、後にマンチェスター・ユナイテッド入りするほどの稀有な才能を振り回した挙句、世界行きを逃した苦い経験が生かされているのかもしれない。
 
 と同時に、4大会連続でU-20ワールドカップ出場を逃すわけにはいかない。そんな強い危機感もまた窺えた。
 
文:浅田真樹(スポーツライター)
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