全国的には無名に近かった松本が、昨季のJ１王者からスカウトを受けたのは、彼自身が新たな力を得ようとし続けた努力の賜物だ。昌平高は、２年前の全国高校選手権が初の全国大会出場。埼玉では強豪校としての地位を確立し始めていたが、全国的にはまだ無名だった。
 
　松本が進路について「入学した頃は、大学でも続けたいと思っていた」と話すのもうなずける。しかし、フィジカル能力がなくても技術を生かせるチームを自分で見つけ、１年生のうちにポジションを獲得し、全国大会出場にこぎ着けた。
 
　松本は「１年生の選手権で何もできず、藤島監督から『お前は、このままでは終わるぞ』と言われた。それで、やってやると思った。あの時に言われていなければ、今の自分はないと思う。２年生の途中くらいから、プロに行きたいという気持ちも芽生えてきた。それでも、高校総体の東福岡戦で負けていたら、やっぱり無理だったでしょうね」と少しずつ夢と現実を前進させてきた高校生活を振り返った。幼い頃に描いた夢との距離を、新たに獲得した力で縮めて来たのだ。
 
　広島への入団が決まり、松本は言った。
「プロなので、通用しないと生きていけない世界。他人以上に努力して最初から試合に関わるくらいのつもりで努力したい」
 
　当面の目標は、冬の全国高校選手権での日本一だが、その先に会見で言ってのけた「広島の顔になる、日本代表の顔になる選手」という目標も掲げた。難度は高まるが、また新たな目標に近付くため、松本は新たな力の獲得を求めていく。
 
取材・文：平野貴也（フリーライター）