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好きなサッカーとプロキャリアを畳み、こだわりの藍染で広げる小さな希望【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:連載・コラム

手嶋真彦

2025年04月14日

サッカーの影響力をよく知る染め師ならではのイメージ

品田の藍染と相性が抜群なのは機能性とデザイン性の両立が求められるフリースタイルフットボールのウェアだ。欧州で活躍した元プロはサッカーの大きな影響力をよく知っている。

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 地球、社会、社内、校内、部内...。改善を願う環境の規模が大きくなればなるほど、人は己の無力さに直面し、絶望も深くなる。それでも前へ進んでいくには、実感できる手応えのような変化がおそらく必要だ。まずは小さな変化を自ら起こすには、率先して行動するしかない。

「まだ“ちょこっと”ですが――」

 青い指先を見つめながら品田はこう続ける。

「以前よりは希望を感じるようになりました」

 元プロサッカー選手の藍染師としてメディアに取り上げられるようになり、世界的なファッションブランドとのコラボレーションが実現している未来を、2020年の元日には想像していなかった。

 品田がイメージしているのはドミノ倒し、あるいは黒がペタペタ白に引っ繰り返っていくオセロゲーム。ほんの小さな力の作用でも、最初のドミノが倒れたら、倒れる動きは連鎖していく。オセロは一手だけで次々に黒が白に引っ繰り返るゲームだ。品田の藍染プロジェクトが最初の小さな一押し、大逆転の一手にもなりえると思わせるのは、前編で紹介したとおり、元プロサッカー選手のその染め師に先を読む洞察力が備わっているからなのかもしれない。

 繰り返しになるが、藍染の繊維製品を制作する品田が、見た目にこだわる理由は――。

「人はまず表面で選ぶからです。中身で選んでくれる人は少数派にすぎません」

 もちろん中身には自信を持っている。

「一例を挙げれば、環境への負荷が少ない素材を、フェアトレードかどうかを気にして、必ず選ぶようにしています」

 ただし、自分の価値観を押しつけるつもりはない。

「中身が良いものを作っている自負があるからこそ、まず表面をいかに飾れるかを大事にしたい。わたし自身が感覚を大切にしているタイプというのもあって、理由がなくても“なんかいいな”と感じてもらえるものを作りたい。シンプルにデザインが好き、これ可愛いと感じてもらえる製品を。そこから藍染の良さを知ってほしい。まずは表面から入ってもらい、中身に興味を持って、背景や意味を掘り下げてくれたら、さらに良さが伝わるだろうと――」

 品田は信じている。環境負荷の高いAという製品が、循環型のBに置き換われば成功なのであって、背景や意味など知らなくても構わないのだ。そうした小さな成功の積み重ねが、やがて世界を大きく変えているかもしれない。

「クローゼットの一部が、わたしの作ったストールに置き換わります。作るのに手間暇がかかる一点物の藍染は手拭いでも高価ですから、簡単に買い換えようとはしないでしょう。一度手に取ってもらえたら、違いを肌で感じてもらえる自信はあります。わたしの商品をリピートしてくれたり、知り合いに勧めてくれたりする方々も実際にいらっしゃいます」
 
 もっといえば、環境負荷の高いAに置き換えられる循環型のBが自分の製品でなくても品田は頓着(とんじゃく)しない。

「環境的に良いものを手掛けている人たち、イコール全員仲間みたいな(笑)」

 ドミノの最初の一押しは、誰が押しても構わないという話だ。オセロなら、黒を白に引っ繰り返そうと行動する人たちが、少しずつでも増えていけばいい。

 前述したNHKの番組でも「元プロサッカー選手の藍染師」と紹介されていた品田だが、いずれ次のように肩書きが変わっていてもおかしくない。「元プロサッカー選手ならではの藍染師」が、この方ですと。

 品田が見せてくれたのは藍染の靴下だ。「ヘンプ80%のスポーツソックスです」

 ヘンプとはエコフレンドリーな天然素材のひとつで、通気性や吸湿性に優れ、耐久性もある。

「これだけ大量のヘンプを使った靴下自体が市場に出てこないですし、それをスポーツで使えるところまで持ってきた藍染の製品はたぶんどこにもありません」

 物心がついた頃から3歳上の兄とボールを蹴っていた。中高の6年間はベンチやスタンドが定位置だった。アメリカの大学で大きく飛躍して、ヨーロッパでプロ選手となった品田は、よく知っている。「サッカーが世界中でどれぐらいの影響力を持っているか」を。ちなみに、スポーツソックスについての品田の解説はこう続く。

「ソックスへのこだわりが強いサッカー選手は少なくないんです。履いたときのフィット感や、足の動かしやすさや、ランニングのしやすさなど」

 とはいえ、サッカーなどのスポーツで使われるソックスの素材はポリエステルなどの化学繊維が主流で、植物性由来の天然繊維に染色する藍染は広がりにくい。一点物へのこだわりもあり、NORABIという自身のブランドを立ち上げた当初から、品田はフリースタイルフットボールのアクロバティックなパフォーマーが藍染のウェアで輝く姿を想像してきた。

 フリースタイルフットボールは、2024年のオリンピックで正式種目として採用されたブレイキンとの共通点が多く、普段着のようなヒップホップ系のウェアには機能性とデザイン性の両立が求められる。品田が志向する「表面と中身」を兼ね備えた藍染の繊維製品との相性は、たしかに抜群だ。

「あと、ストリートサッカーも。子どもはみんな、普段着でボールを蹴っているじゃないですか」

 想像してみよう。断崖絶壁へと向かっている、わたしたちの未来を。あなたにも、できることが、きっとあるはずだ。(文中敬称略)

取材・文●手嶋真彦(スポーツライター)

※サッカーダイジェスト2025年3月号から転載

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