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「スポーツ産業がもっと稼げるように」サッカー界から飛び出した営業パーソン【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:連載・コラム

手嶋真彦

2024年04月01日

企業の課題解決を支援して収入源を増やしていく試み

KPMGコンサルティング株式会社でスペシャリストを務める井川氏。

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 当連載のスタート以来、二度目の登場は初めて。25年近くJクラブのスタッフだった営業パーソンは、なぜサッカー界をあえて飛び出し、コンサルティングファームに転職したのか。「スポーツ産業がもっと稼げる」未来へ、どのように貢献していく覚悟なのだろうか。

――◆――◆――

「有機土壌を作って配る、そんなJクラブがあっても、いいじゃないですか」

 全身から熱波のような気炎を放散しながら、現在の取り組みについて語るこのコンサルタント、1年前まではJクラブで主に営業に携わっていた。井川宜之。48歳。当連載には二度目の登場だ。

「新しい武器を手に入れるために、修行に出ます」とサッカー界の仲間たちに断りを入れ、2023年3月から大手コンサルティングファームに転職――。いったいどのような覚悟を持って、井川はその決断に踏み切ったのか。そして自身の生涯を捧げていくと決めている日本サッカー界に、どのように貢献していく未来を思い描いているのだろうか。

 J1の湘南ベルマーレが公式YouTubeチャンネルに、ある動画を投稿したのは昨年12月のことだった。動画のナレーションに耳を傾けると「チームの食堂で出た野菜の切れ端やフルーツの皮など生ゴミをコンポスターに投入し、良質な有機土壌を育成」「この土壌を用いたミニトマト栽培キットを今後地域の子どもたちに提供」「その栄養満点なミニトマトを子どもたちが食べることで栄養が次世代に受け継がれていくことを目標」としているという。

 コンポスターとは土のなかの微生物が有機質の生ゴミを発酵分解し、堆肥(コンポスト)に変える生ゴミ処理容器を指している。この道具を使えば、生ゴミを焼却処分せずにすみ、地球温暖化の原因となるCO2の排出を抑制できるうえ、安全性の高い有機土壌を育成できるのだ。公式YouTubeのその動画には、ベルマーレのホームグロウン選手である田中聡が、最初の生ゴミをコンポスターに投入する様子も収められている。

 この共創プロジェクトの発端となったのは、ベルマーレのオフィシャルクラブパートナー(協賛企業)であるTIS株式会社からの相談だった。この大手IT企業はコア領域のデジタル技術を生かしながら、有機土壌から生まれる価値そのものを高めていく新規事業の構想を温めている。

 ただし、有機土壌の門外漢がそれを商材としていくには、ゼロから信頼を築いていく必要がある。コンサルタントとなった井川が力を注いでいるのは、こうした企業の課題解決にスポーツの力をどんどん活用してもらい、Jクラブをはじめとするスポーツコンテンツの提供者たちが得られる収入を増やしていくことだ。

 ベルマーレは「ターゲット35」という年間予算を35億円規模に増やしていく目標を公表している。その実現に向けて、井川たちは従来のユニホームやスタジアム看板を企業広告のメディアとして販売する広告協賛型に加えて、新たに企業の課題解決を支援することでスポーツクラブの収益を増やしていく課題解決型の収益拡大策を試みているのだ。
 
 ミニトマトの栽培プロジェクトでは、X(旧ツイッター)のフォロワー数が16万7000というベルマーレの、Jクラブならではの情報発信力などをTIS社が活用する。コンポスターは手動で2週間に1回程度ゴロゴロ回すだけでよく、手間暇はかからない。

 新米のコンサルタントとして、協賛企業とベルマーレの間を取り持つ井川は、この共創プロジェクトのポテンシャルについて熱く語る。

「有機土壌ならではの養分やミニトマトを実際に育てられたか、定量的に分析してきちんと検証します。最初からうまくいくとは限りませんが、温室効果ガスを減らすというエコな取り組みそのものは、いずれにしても評価されるでしょう。TIS社はこの共創プロジェクトを通して、新規事業への本気度を多くの人に伝えられます。

 スポーツに可能なのは、その競技自体で人を喜ばせることや、広告看板などで企業名を露出し、企業のブランド価値向上に寄与することだけではないんです。企業の課題を解決する価値を提供することで新たな収益源を増やしていける。ミニトマト栽培プロジェクトは、そのことを実証できる取り組みになるはずです」

 井川の転職先であるKPMGコンサルティングは、こうした課題解決型のスポーツ投資に見込める効果を、貨幣価値に換算するノウハウの提供も始めている。

「私たちがいま取り組んでいるのは大企業から中小企業まで、さまざまな企業がスポーツを応援しやすくなる、その材料を増やしていくことです」(井川)

 株式を公開している企業の場合は、いわゆるESG投資をますます意識し、環境や社会に配慮した企業活動を展開していかなければならないだろう。株主や投資家に向けて、非財務的な面でも健全な企業だと情報を開示していくうえで、社会課題の解決に貢献できるスポーツへの投資をどんどん増やしてほしいと井川たちは願っており、どうやらニーズもありそうだ。

 あるJクラブは、株式公開企業のいわゆるナショナルクライアントから、協賛の社会価値を算定できないかと、そうした趣旨の問い合わせを受けているそうだ。

「たとえばJクラブが中心となり、海岸線を清掃するとしましょう。その活動が社会にもたらすインパクトを第三者である我々が貨幣価値に換算する知見をクラブに提供し、支援することで、とりわけ株式を公開している企業がスポーツに投資しやすくなるという目論見です。

 Jクラブを支援すればESG経営に寄与できるという認識を広めて、スポーツへの投資は広告露出や選手などの肖像の使用にしか意味がないと思われていた、これまでの価値観を変えていきたいです。この仕組みならB2C向けビジネスの企業だけでなく、B2B向けビジネスの企業にもスポーツに投資する堂々とした理由が出来るからです」

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