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中高6年間ベンチかスタンドが定位置。不遇な人にこそ届けたい元プロの物語【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:連載・コラム

手嶋真彦

2025年04月14日

フィンランドでプロ選手に。エスパニョールでもプレー

元プロサッカー選手の品田。現在は藍染師として活動している。

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 後編にも通じる大きなテーマは、個人で解決するのが難しい地球、社会、社内、部内などの環境問題。前編ではいま不遇な人にこそ読んでほしい物語をお届けする。「元プロサッカー選手の藍染師(あいぞめし)」となる品田彩来(あやき)は、ベンチかスタンドが定位置だった中高6年間をどのように捉え直しているのだろうか。

――◆――◆――

 この飛行機はもしかすると墜落するのかもしれない。乱気流にしては、いくらなんでも乱れすぎている。このまま機体の天地が引っ繰り返るのではないかと、思わざるをえないほどに。

 極限状態に陥ると、人の感情はむき出しになるようだ。人目を憚(はばか)ることなく叫ぶ人、泣く人、怒る人...。声をあげて笑っている乗客もいる。真後ろの座席では家族らしき3人組が涙声で祈りの言葉を唱え、横を見るとカップルが抱き合いながら泣いていた。

 マンチェスター発、ヨーテボリ行きの荒れ狂うその機中で、品田彩来の心は静かだった。スマホに遺書を残しておくかどうか、考える余裕すらあるほどに。

 2020年の冬。プロサッカー選手を辞めてから、まだ間もなかった。カオスの機中で品田は自覚する。できれば子どもは産んでみたかったが、思い残すことは何もない。悔いのない生き方を自分はしてきたに違いないと。そのときはまだ想像すらしていなかった。やがて「元プロサッカー選手の藍染師」と呼ばれる日が来ることを。

 品田がプロサッカー選手を辞めたのは、2020年の年明け早々だ。2019年の大晦日(おおみそか)、新年に向けてのカウントダウンが始まるまで、こんなに早く引退することになるとは予想すらしていなかった。ヨーテボリへ向かう機中の人となっていたのは、日本に帰国する前にスウェーデン時代の友人たちに会うためだった。

 2019年の大晦日にいったい何が起きたのか。詳しい話は、後編に譲りたい。前編から後編へと通じる大きなテーマは、個人で解決するのが難しい地球、社会、社内、校内、部内といった大小様々な環境問題への向き合い方だ。その意味で、品田の生き方は、示唆に富んでいる。前編は品田が不遇でもサッカーを諦めず、やがてプロになり、予定よりも早くプロを辞めるまでの物語をお届けしよう。

 品田は物心がつく頃には3歳年上の兄とボールを蹴っていた。小学6年生まで男の子たちに混じってプレーして、中学校に上がる頃には、多くの代表選手をなでしこジャパンに送り出している名門クラブのセレクションを通過する。高校では部活動でサッカーを続けたが、中高の6年間はおおむね報われない日々が続く。

 活躍できるようになったのは、アメリカの大学に進学してからだ。1年生でレギュラーに定着し、2年時に自身初の全米選手権制覇を果たすと、3年時にはアシスト王となる。4年時は怪我に見舞われながらも、全米選手権で最優秀オフェンシブプレーヤー賞を受賞した。品田の大学が所属していたディビジョンは最上位のそれではなかったが、チームメイトのほとんどは各国ユース代表クラスでレベルは高かった。
 
 同年代の世界水準を肌で感じながら、品田は課題の集中力に磨きをかけた。高校時代までのしがらみから解き放たれて、楽しくサッカーをしていこう、プロを目指してもいいのだと、そのように思える自分を取り戻せた。中高時代に底辺を経験していたので、そもそも試合に出場できるだけで嬉しかったのだ。

 大学卒業後はアメリカからスウェーデンへと渡り、2016年にフィンランド1部リーグのクラブと自身初のプロ契約を結ぶ。17-18シーズンからの2年半はスペインのエスパニョールとビジャレアルでプレーした。

 スペインのサッカーは楽しかった。

「チャレンジを拒みません。シュートをどんどん撃ちます。面白いプレーをたくさん入れてきます。観ていて楽しく、やっていても楽しいサッカーでした」

 2019年はバルセロナ・ダービーで幕を開け、エスパニョール所属の品田は、唯一家族がスペインまで観戦に訪れてくれたその試合に出場し、格上とのスコアレスドローに貢献できた。その年の夏に移籍したビジャレアルは2部に所属していたが、年末には首位との直接対決に勝利し、品田自身もゴールを決めている。2019年の大晦日に品田が綴(つづ)ったブログからも、プロキャリアを終える予兆らしき気配は窺(うかが)えない。それはそうだろう。大晦日の夜まで、本人に辞めるつもりがなかったのだから。

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