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好きなサッカーとプロキャリアを畳み、こだわりの藍染で広げる小さな希望【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:連載・コラム

手嶋真彦

2025年04月14日

藍染は楽しいかと問われて無邪気に頷くのは難しい

種類の多い藍染のなかで品田が選んだのは、究極の循環型といわれる技法。見た目の良さにこだわるのも地球環境問題との向き合い方の一環だ。(C)elevenista

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 藍染師となった品田の指先は職業柄青く染まっている。赤系も茶系も緑系もその他の色もある草木染で、自分の好きな色は他にあるのに、品田があえて青の藍染を選んだのは理由があるからだ。

「どちらかといえば、わたしは直感で生きているタイプで、ふいに思いつきました。青がいいかもと。ジーンズがそうですけど、青って色は人を選びません。誰のクローゼットにあっても邪魔じゃない。そんな印象もありました」

 アメリカの大学でアートを専攻し、印刷にも興味を持っていた品田にとって、藍染の繊維製品は「コンテンツとして」優れたものだ。

「染め方が付着なので、塗っているのと同じです。だから、アートに昇華させやすい」

 藍染のスタイリッシュなカッコ良さ、パッと見の良さに品田がこだわるのは、その製品を手に取ってもらえる可能性が高まるからだ。手に取ってくれさえすれば、天然繊維を選んでいる素材の良さをきっと感じてくれる。購入してくれたら、その製品を使うたびに、思い出してくれるかもしれない。そういえば、あの藍染師、地球環境の話をしていたなと。

「頭ごなしに地球環境が大切だと言われても、煙たがられます。でも、天然の自然なものが普段の生活に入ってきて、身近に使うものの心地よさがわかってくれば、そのまま愛用してくれるでしょう」

 微生物による発酵のプロセスも工程に含まれる藍染は奥が深く、手間暇がかかるので染め師の忍耐力も必要だ。一点物にこだわる品田の場合は、よりいっそうの創造性や集中力も求められる。藍染は楽しいかと問われ、無邪気に頷(うなず)くのは難しい。

 もちろん、面白みは感じている。それは藍染が、アート、デザイン、生物、農業、アパレルといった品田が好んできた領域にまたがっているからでもあるだろう。しかし、楽しさだけを優先させるなら、プロサッカー選手を続けていたと品田は断言する。監督やチームメイトや対戦相手といった多様な人を相手にしながら、競い合いもするサッカーには、サッカーならではの難しさがある反面、楽しさもそれは大きなものだった。他に代えがたいその魅力とは、比べようがない。

「少し真面目な話をさせてもらうと、藍染をやることに何かしらの意義があると思って、やっているんです」
 
 二酸化炭素排出量の削減が繊維業の大きな課題になっていると知ったのは、プロサッカー選手を辞め、地球環境問題について本格的に学びはじめてからだ。かといって品田は、使命感のような大きな何かに突き動かされているわけではない。

「(環境への負荷が低い)循環的なものならば、自分がやっていることに嫌な気分にならず、それを進めていけるのではないだろうか。せめて自分が嫌な気分になるものに加担はしたくない」

 そう言うと、品田は少々意外な話をしてくれた。

「わたし、どちらかというと、家でゆっくりしていたいタイプなんです。ソファーの上から動かず、雑誌や本や漫画を読んだり、動画を見たり、一日中そうしていたい」

 それなのに、両手の指先を青く染めながら、日々工房に立っているのはなぜなのか。

「自分のためです。循環社会になってくれたほうが、心地いいからです」

 藍染には実は種類が多く、色を出す技法や原料も様々だ。そのなかから品田が選んだのは、日本古来の「正藍(しょうあい)」と「本藍(ほんあい)」というふたつの技法。どちらの技法もすべてのプロセスが地球生態系の循環に含まれる究極の循環型だ。そのように自分の気持ちに正直に地球環境と向き合う品田だが、その一方ではあの日浮かび上がった絶望感を振り払えずにもいる。

「地球環境問題を調べれば調べるほど、もう間に合わないのではないかと思ってしまいます。今は出口のないトンネルを走りつづけている感覚に近いです」

 どこにも希望はないのだろうか。そう問い掛けると、品田はつぶやいた。

「最終的にはみんなの輪が強くなり、社会的な問題を解決していけたら嬉しいです。そうなれば感動すると思います」
 
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