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中高6年間ベンチかスタンドが定位置。不遇な人にこそ届けたい元プロの物語【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:連載・コラム

手嶋真彦

2025年04月14日

自分が成長できていたら他者の評価なんて関係ない

フィンランドで初のプロ契約を結び、エスパニョール時代(前列右端)はバルセロナ・ダービーという檜舞台も。

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 高校時代の品田は、辞めようと思えば、いつでも部活動を辞められた。スポーツ推薦ではなく、一般入試で進学していたからだ。この高校を退学して、別の高校に移ろうかと考えたこともある。親元を離れての寮生活だったので、部活動を辞めたら何かと気まずくなるという事情もあるにはあったが、だから辞めなかったわけではない。サッカーそのものを辞めたくないから、部活動を続けたのだ。

 小学生の頃は、他の子よりも上手にプレーできたら褒められて、嬉しくてサッカーを続けていたところもあったという。しかし、高校時代の品田は、他者からの評価とは違った次元のモチベーションを持っていた。

「サッカーの根本を自分のなかで解釈できた、とでも言うのでしょうか」

 相手をしっかり分析できれば、1対1でも組織でも、抜けるし止められる。行き当たりばったりの勝った負けたではなく、局面局面の勝ち負けの因果を高い確率で予測できるようになる。当時からこのように言語化できていたわけではないが、サッカーの根本を自分なりに解釈できるようになった自身の変化、成長を実感できたのは、中学3年生になった頃からだ。

「急にできることが増えたんです。その楽しさがすごくありました。だから高校時代は苦しかったですけど、続けられました」

 待ち遠しかったのは練習試合の日。追加の3本目なら、たぶん出場できるだろうと楽しみにしていたものだ。

 もしも高校の途中か終わりにサッカーを辞めていたら――。

「いろんな人への嫉妬心を抱えて、生きていたのかもしれません。中高の底辺時代を覆(くつがえ)せるような結果をサッカーで残せたので、いまそういう感情は一切ないですね」

 中高時代の品田は、試合にこそ出ていなかったが、練習にはひたむきに取り組んでいたという。アメリカの大学で開花し、ヨーロッパでプロ契約を結べたのは、他者からの評価と自身の真価を切り離し、こう言えるまでサッカーを続けたからではなかったか。

「本当に良い選手は、誰が監督でも使うのではないかという考えが、どこかにありました。でも、プロの世界に入ってみて、どれだけ良い選手であっても、監督の判断ひとつで使われないこともあるんだと、わかってきたんです」
 
 品田の話はこう続く。

「アメリカのプロチームのトライアウトで、最上位のディビジョンでプレーしていた選手たちではなく、自分が選ばれたときに思いました。どんな環境に置かれていても、自分自身が成長できていたら、他者からの評価なんて関係ないんだと」

 2019年の大晦日の午後、品田は列車でビジャレアルからバルセロナへと向かっていた。バルセロナではエスパニョール時代にルームシェアしていたチームメイトたちと合流し、モンジュイックの丘の噴水前で開催される年末恒例の大規模なカウントダウンライブを観に行くことになっている。

 近年のスペインでは女子サッカーが急速に発展しており、品田もその熱気を肌で感じ取っていた。彼女自身これから脂が乗り切る27歳という年齢で、少なくとも数年先までプロ選手を続けるつもりだった。

「スペインでプレーするようになってから、ワールドカップやオリンピックに出場するような選手だらけの試合のなかで、自分のどこが通用していて、どこが通用していないか、わかってきていたんです。ある意味では、当時の女子サッカーの最高峰を把握したうえで、どこまでやるかという自問自答はしていました」

「わたしのなかではワールドカップやオリンピックに呼ばれる可能性はほぼないと思っていたので、女子サッカーの最高峰の選手たちと一緒にプレーして、対戦できる環境にいられるだけで、目標達成にほぼ近いという感じでもありました」

「サッカー選手として生きられる。サッカーのことだけを考えていればいい。それは昔から憧れていた日常でしたから、すごく幸せなことだったと思います」

 2019年の大晦日にいったい何が起きたのか。後編では「元プロサッカー選手の藍染師」となる品田のその後を紹介したい。もうおわかりだと思うが、ヨーテボリ行きの飛行機は機中の大喧騒をよそに、品田がたぶん大丈夫だろうと思っていたとおり、行き先をマルメに変更して無事に着陸したという。(文中敬称略。後編に続く)

取材・文●手嶋真彦(スポーツライター)

※サッカーダイジェスト2025年2月号から転載

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