• トップ
  • ニュース一覧
  • 中高6年間ベンチかスタンドが定位置。不遇な人にこそ届けたい元プロの物語【日本サッカー・マイノリティリポート】

中高6年間ベンチかスタンドが定位置。不遇な人にこそ届けたい元プロの物語【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:連載・コラム

手嶋真彦

2025年04月14日

咄嗟に物陰に身を隠した。荷物番だったあの日の記憶

品田③が自身の真価に目覚め、自信を取り戻したのはアメリカに渡ってから。大学3年時は全米選手権でアシスト王に輝き、4年時は最優秀オフェンシブプレーヤー賞を受賞した。(C)Lindsey Wilson College

画像を見る

 もっと早く品田がサッカーを辞めていたとすれば、高校時代のどこかでだったのかもしれない。一言でまとめる無礼が許されるなら、「不遇な部活動」に終始したからだ。

「ああ、場所が合わなかったんだ」

 そう振り返ることができたのは、品田がアメリカの大学に進んでからだ。高校時代は、どれだけ真面目に一生懸命取り組んでも、ベンチかスタンドが定位置だった。アメリカの大学で、今日は15分しか出場できなかったと不満を漏らすチームメイトに、品田は内心でまだマシだと思っていた。高校時代の自分は、15分プレーできれば、喜んでいたのだから。

「楽しかったことは断片的に覚えていたりもするんですけど、過去の記憶は消していくタイプで、高校時代は学校生活を含めて、ほとんど記憶にないんです」

 そう語る品田にも、忘れられない出来事はある。U-18年代の全国大会で宮崎に遠征した、高校1年生の冬の記憶だ。

 品田の役目は荷物番だった。衆目に晒されながら大声で歌う、スタンドでの応援に回るよりは気が楽だった。「ピッチ上の選手と一緒に戦うんだ」と鼓舞されても、ベンチ外という結果を踏まえれば、心情的に無理がある。

 忘れられないのは、スタジアムの外で荷物番をしていたとき、中学時代に所属していた名門クラブの元チームメイトたちとすれ違う、その前後の記憶だ。すれ違う直前、品田が物陰に身を隠したのは、咄嗟に合わせる顔がないと思ったからだ。その名門クラブの出身者は、高校の3年間レギュラーを張り、エースとして活躍するのが当たり前だと見なされていた。品田が進学した高校のサッカー部は創部からまだ間もない新興で、当時は弱小の部類に含まれていた。

 中学3年の夏まで所属した名門クラブでも、品田は出場機会に恵まれないままだった。入団したての当初から感じていたのは精神面での大きな違いだ。品田が男の子たちに混じってプレーしていた小学生時代のチームは、サッカーの楽しさだけを追求し、ボールは試合形式で蹴るものだった。一方、中学時代のチームメイトたちは、はるかにシビアな世界に生きていた。品田は引け目を感じ、気後れしているのがプレーに出てしまうという悪循環にも陥った。

 当時のつらさや悲しさが凝縮されている荷物番のシーンを品田がいまでも覚えているのは、逃げ隠れするのはやっぱりやめたと物陰から戻ったからだろう。

「あれ、何してるの? 怪我?」

 同期の元チームメイトに話しかけられて、品田はありのままを打ち明ける。

「え、なんで?」

 問われているのはベンチ外になっている理由だとわかったが、言い訳はしなかった。
 
 高校2年生になってからも品田の不遇は続く。一時期試合に出場できていたのは、1つ上の学年が部活動引退でごっそり抜けたからだった。試合に出ていたその時期は、学校関係者や応援の保護者からプレーを褒められるようになる。

「いろんな方に期待していただいた時期でした。自分でも手応えのようなものを感じていましたし、少し自信がついてきたところで――」

 突然、何の前触れもなく、ベンチ外に逆戻りする。高校最後の大会の少し前だった。

「なんで出ないの?」

 学校関係者にそう聞かれても、「わたしにもわからないです」と、答えるしかない。監督と揉(も)めていたわけでも、問題を起こしたわけでもない。自主練を含めて、できることはすべてやってきたはずだ。

「唯一やらなかったのは、監督の顔色を窺うことだけでした」

 次はフィールド上で再会するという、中学時代のチームメイトとの約束は最後まで果たせないままだった。「場所が合わなかった」と気づけたのは、アメリカという新天地を求めてからだ。

 合わなかったのは「相性」とも言える。アメリカでは男子とプレーできるのが楽しみだった。同じ大学の男子サッカー部も強豪で、練習のない日にフットサルやミニゲームに混ぜてもらう機会があった。

 品田が日本の女子サッカーに感じてきたのは、感覚のズレだった。たとえばもっとワイドにロングボールを出して、攻撃の幅を作り出したい、実際に出せると品田がいくらイメージしても、そのイメージをチームメイトと共有するのが難しい。生じるのは違和感だ。

「自分の良い部分の50%ぐらいが、使われていない感覚でした」

 少しだけ補足すると、品田が語っているのは「良い、悪い」の話ではなく、「合う、合わない」の話だ。ちょうどいいという距離感が合わない。ここだというタイミングが合わない。距離感もタイミングも、アメリカで男子サッカー部員とプレーしていると、しっくりくる。フィットしている感覚を味わえば味わうほど、わざわざ「女子サッカー」とカテゴライズして、区切りを設けることへの違和感も強くなる。

 プロになってから、日本でプレーしてみた時期もある。フィンランドからスペインへ移籍する前の移行期間にだ。しかし、やはり違和感が拭えなかった。

 繰り返すが、これは良し悪しの話ではない。合う合わないの話であり、フィットする場所を見つけられた品田は幸いだったという話だ。試合が好きで、不遇でもサッカーを続けたからこそ、おそらく見つけられた幸せだった。
 
【関連記事】
好きなサッカーとプロキャリアを畳み、こだわりの藍染で広げる小さな希望【日本サッカー・マイノリティリポート】
ACL決勝の知られざる舞台裏――チームマネージャーが語るUAE戦記【日本サッカー・マイノリティリポート】
商工会議所の職員が切り開く新たな道。勇気を振り絞った可能性への挑戦の記録【日本サッカー・マイノリティリポート】
「スポーツ産業がもっと稼げるように」サッカー界から飛び出した営業パーソン【日本サッカー・マイノリティリポート】
【画像】絶世の美女がずらり! C・ロナウドの“元恋人&パートナー”たちを年代順に一挙公開!

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト 王国の誇りを胸に
    4月10日発売
    サッカー王国復活へ
    清水エスパルス
    3年ぶりのJ1で異彩を放つ
    オレンジ戦士たちの真髄
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト 特別企画
    5月1日発売
    プレミアリーグ
    スター★100人物語
    絆、ルーツ、感動秘話など
    百人百通りのドラマがここに!
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 完全保存版
    1月17日発売
    第103回全国高校サッカー選手権
    決戦速報号
    前橋育英が7年ぶりの戴冠
    全47試合&活躍選手を詳報!
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ