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Jクラブ初の知的障がい者サッカーチーム「横浜F・マリノスフトゥーロ」。みんなが共に生きていける優しい未来へ【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:Jリーグ

手嶋真彦

2023年01月25日

大きなピラミッドを作って、プロ選手を輩出していきたい

大所帯となったフトゥーロの選手たち一人ひとりの成長へ、2018年度から横浜市の社会人リーグに登録。昨季は3部で戦った。(C)1992 Y.MARINOS

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 望月が理事を務める「一般社団法人F・マリノススポーツクラブ」の事務所には、月に一度、パンやジュースの移動販売がやってくる。横浜市内に本社を構え「あらゆる障がいのある方々の雇用創造」を使命とする企業が事業化している移動販売だ。その移動販売を担当しているひとりに、フトゥーロの選手がいる。横浜F・マリノスの大ファンで、日産スタジアムにはサポーターとしても、試合運営を補助するボランティアとしても訪れる。月に一度、望月やフトゥーロのコーチたちと移動販売で会える日も、楽しみにしてくれている。

 パンやジュースを販売するその青年の仕事ぶりに、望月は目を奪われる。自信をにじませ、堂々と振る舞っているからだ。

「やっぱり嬉しいですよね」

 この青年だけでなく、フトゥーロの活動を通して選手たちが成長していく姿を目の当たりにできるのが、望月の励みになっている。選手たちに励まされ、思い描いているのは、フトゥーロが大きなピラミッドとなっている、そんな未来だ。

「フトゥーロのトップチームがあり、強化クラスがあり、アカデミーがあり、スクールもある。大勢いるコーチの何人かはフトゥーロの選手だったOBです。今はまだ我々にそこまでの余裕がないですが、いずれはフトゥーロの選手たちをクラブで雇用できるようにもしていきたい」

 知的障がい者サッカーでも、世界選手権が“もうひとつのワールドカップ”として開催されている。フトゥーロの選手たちにとっても出場は大きな目標だ。

「フトゥーロのピラミッドができれば、もっと目標が増えていくと思います」
 
 明確なビジョンは小山も持っている。

「フトゥーロからプロサッカー選手を出せるようになりたいですね」

 小山の話を聞きながら、望月も深く頷いている。「Jリーガーを輩出していきたい」と語っていたのが望月だ。ふたりが共有している目標はそれだけではない。

 知的障がい者サッカーのJリーグを作りたい。すでに横浜と鹿児島にある、知的障がい者サッカーのチームを持つJクラブの仲間がどんどん増えていってほしい。だからこそ――。

「喜んでシェアします」

 望月はそう話している。F・マリノスが三者連携で丹念に積み重ねてきた経験を、喜んでシェアしていくと。

 横浜ラポールの体育館でフトゥーロの練習を見学しながら筆者が感じていたのは、もう19年以上、フトゥーロの前身となった活動を含めれば24年以上、多くの関係者がバトンを受け渡してきたであろうこの取り組みの重みだった。

 知的に障がいのある人たちが気軽に身体を動かし、スポーツを楽しめる環境は、ハード・ソフトの両面で地域差があるなど、全国的にはまだ十分には整備されていないと耳にした。だとすれば、その大きな理由のひとつは「知らないこと」なのではないか。知的障がいとは、どのような障がいか。どのような選手たちが、フトゥーロのようなチームでプレーしているか。彼らを支える人々がどのような思いで、取り組みを繋いできたか――。

「サッカーを通して別々から一緒へ」
「サッカーを通して人間力を高める」
「サッカーそのものでさらに上を目指す」

 小山から借りたフトゥーロの資料には、そんな思いが綴られている。どんなにささやかであれ、この拙文がフトゥーロをはじめとする知的障がい者サッカーチームの存在や活動を知るきっかけとなってくれたら、それ以上の喜びはない。

 今から7~8年前のことだ。F・マリノスにトップチームのサポーターからメールが届いた。クラブの了承を得て、そのメールの一部を紹介させていただく。

「本日、前座試合で『フトゥーロ』をはじめて知りました。試合後、胸を張りスタンドに挨拶する選手たち、トップチームと同じように大声援で健闘をたたえるサポーター、ご家族の方々の涙、ひとの温かさを感じました。

今、私は少し辛い日々を送っておりスタジアムから遠ざかっておりましたが、今日スタジアムに行ってよかったと思いました。ありがとうございます。

明日からがんばろうと思います!」

 小山の心に、今も強く残っている大切なメッセージだ。

「これを拝見して、僕らも誰かを元気にすることができるんだ。それは障がいがあっても、なくても同じなんだ。それがわかって、もっとフトゥーロの存在や活動を知ってもらい、もっと一緒にいろんな取り組みを続けて、理解し合いたい。社会全体に優しい気持ち、お互いを思いやり、理解し合う気持ちが少しでも高まって、そういう人が増えていけば素晴らしい。それがマリノスだけでなく、他のクラブでもどんどん生まれてほしいと思います。堅苦しい言葉で言うと、みんなが共に生きていく共生社会の実現、ということになるのだと思います」(文中敬称略)

取材・文●手嶋真彦(スポーツライター)

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