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Jクラブ初の知的障がい者サッカーチーム「横浜F・マリノスフトゥーロ」。みんなが共に生きていける優しい未来へ【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:Jリーグ

手嶋真彦

2023年01月25日

“場”を作るのも使命のひとつ。大事な地域貢献の一環だ

チーム創設から尽力してきた望月氏(右)と小山氏(左)。写真:手嶋真彦

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 理解に時間がかかる。コミュニケーションを苦手としている。こだわりが強い。こうした傾向が一人ひとり、それぞれ程度が異なり、組み合わせも異なるフトゥーロの選手たちに、コーチ陣はどのように向き合っているのだろうか。

「個性と捉えれば、見方はぜんぜん違ってくると思います」

 穏やかな口調でそう語るのは望月だ。練習着に着替えるのに20分、30分と時間をかける選手もいる。脱いだ衣服をまず畳む。チャックは定位置まで上げておかなければ落ち着かない。そうしたこだわりの強さのために時間がかかる。

「どうしてそんなに遅いんだ。もっと早くできるだろ。そんな目で見るのではなく、そういう選手なんだ、そういうこだわりなんだと、時間をかけてしっかり見てあげればいいわけです」

 観察が大切ですと望月は続ける。どんなことを得意としていて、どんなことが不得手なのか、コミュニケーションを苦手としている選手が多いので、なおさら一人ひとりと真摯に向き合わなければならない。たしかに時間はかかるが、では時間がかからなければ良いのだろうか。誰にでも、本当は自分に合ったペースがあるのではないか。そんな疑問も湧いてくる。

 望月はこう語る。知的に障がいのある選手たちの様々な個性に合わせ、アプローチの仕方を工夫しながら、指導者が根気よく向き合いつづければ、理解も進み、成長していけるのだと。小山が続ける。

「指導者が、『“困った”選手だ』ではなく、『“困っている”選手だ』という感覚を持てると、発想が変わってきます。この言葉を大切にしてほしいです」

 そもそもフトゥーロが知的に障がいのある人たちを対象とした背景に、コミュニケーションを苦手とする傾向の強さがある。小山が解説してくれる。

「クラブを作る、協会を作るとなれば、いろんな人と話をして、交渉したり、意見を求められたりすることもあるでしょう。そうしたコミュニケーションを苦手とする人たちを、まず支援する必要があったからです」

 ところがフトゥーロでプレーを続けていくうちに、少しずつではあるが、自発的な発言が増えていくことも少なくないという。なぜなのか。

「みんなサッカーが大好きで、自信を持てるようになるからです」
 
 望月のこの話は次のように解釈できる。フトゥーロの選手たちは大好きなサッカーだから、練習や試合に参加しつづける。プレーを続けていくうちに、最初はできなかったパスやシュートができるようになる。できるプレーが増えると、自信が湧いてくる。自信を持てるようになれば、例えばパスが欲しいタイミングで声を出すようになる。そうやって自分の意思を伝えることが、ピッチの外でも、つまり家庭や職場や学校でも少しずつできるようになっていく。フトゥーロで大切な仲間ができ、仲間たちとの切磋琢磨もそれぞれの成長に繋がっている――。小山が話を続ける。

「知的に障がいのある人たちには、サッカーはものすごく難しい種目なんです。自分がいて、相手がいて、ボールがあって、コートがあって、審判もいて、時には観客もいて、天候も違うし、二度と同じシーンは起こりません。だからこそ、この種目を続ける意味が大きいわけです。判断することが必要な場面で、自分の意思で決めて、実行する。ピッチ上でのその経験が、社会生活の様々な場面で生かされていくからです」

 Jリーグには地域密着・地域貢献という変わらない理念がある。地域貢献には環境整備も含まれる。地域の人たちが気軽にサッカーを楽しめる、サッカーを通して人生を豊かにしていける、そのための環境整備だ。普及活動やふれあい活動に長年携わってきた望月は言う。

「“場”を作るのも、我々の使命のひとつです」

 知的に障がいのある人たちのチームという場を作り、コツコツ継続し、20年目を迎えているのも、望月たちにとっては大事な地域貢献の一環なのだ。

 横浜F・マリノスが知的障がい者サッカーの“先駆者”となっているのは、障がい者のスポーツ指導に詳しい小山のようなスペシャリストの協働者が地域に根を張っていたからだ。フトゥーロは主に3つの組織が連携を継続し発展してきた。筆者が練習を見学させてもらった「横浜ラポール」という施設を運営し、障がい者のスポーツ活動、文化活動を支援する「社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団」、地域のスポーツ振興を担う「公益財団法人横浜市スポーツ協会」、そしてサッカーの技術指導を担う横浜F・マリノスの三者連携だ。最初に旗を振り、協力者を増やしていく小山も、貴重なこの取り組みを見守り、コーチとしても関わりつづけてきた望月も、フトゥーロの創設20周年を前にして、次の未来を見据えているという。それはどのようなフトゥーロ(未来)なのだろうか。
 
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