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今だからこそ話せる川崎時代のエピソードと以心伝心のゴール。中村憲剛×大久保嘉人【特別対談/後編】

カテゴリ:Jリーグ

本田健介(サッカーダイジェスト)

2022年01月04日

“第2の大久保嘉人”は生み出せるのか

C大阪移籍後の等々力でのゲームでは2ゴールの活躍。古巣のサポーターからも温かく迎えられた。(C)SOCCER DIGEST

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――引退会見で嘉人さんは、ゴールを奪うために論理的に考えていたとも語っていました。アシストする立場だった憲剛さんはどう見ていましたか?

中村 そこは言語化するのが非常に難しいんですよ。要は嘉人はこう、と思ったことをすぐできちゃう。点を取るためにここに立って、こうシュートを打つ、と考えても、相手もいますし、理想通りにできない人のほうが多いですよね。ただ嘉人はできちゃう。そこに毎回、恐ろしさを感じました。例えば、プレーのなかで僕が、「嘉人もう少しこっち」と互いの意識を調整しますよね。それを次のプレーから、嘉人はできちゃうんですよ。ペナルティエリアのなかにはディフェンダーがたくさんいる。そのなかで、こちらの意図を汲みながら理想的なプレーをできちゃうわけですからね。これは真似できない。自分が点を取るためのスポットに入る嗅覚は、僕が出会ったFWのなかで断トツでしたね。

 ただ、それは論理的なのか、本能なのか、難しいところです。ポジショニングはロジカルで、相手から少し離れるだとか、間に入るだとか、相手の目線を切った時に動くだとか、そこは論理的なんですが、ベースにあるのは本能なのかなと。

大久保 そう言われると、ゴール前は本能のほうが強いのかもしれないですね。ここに入ったら点を取れるという場所には自然に身体が動くというか。でもわざと最初は開けておいて、どのタイミングで入るとかは考えていました。ゴール前だけでなく前線でのプレーでは、自分の特長が最も生きるポジションに立たないといけないという想いもありましたね。そうしないと、その後の判断が遅れてくるので。だから得意なプレーを出せる身体の向きで待っていました。それで俺をわざと使わずに、裏にいる味方に出してほしい時は動かずにいて、攻撃のスイッチが入った時に、ゴール前に一気に入っていくなど。そういう、ある意味“シンプル”にゴールを奪える手を常に考えながらプレーしていました。

 点を取れるポジションに入っていくのは、経験値もそうですが、昔から持っていた感覚だとは思います。点を取りたいという気持ちが強かったので、小さい頃からそこに入るようにしていたというか。
――そう考えると今後、“第2の大久保嘉人”は生み出せるものなのでしょうか?

中村 嘉人が育てるしかないですよ。そのためにも言語化する練習をしないと。

大久保 指導者になりたいという想いもありますよ。でもまずはライセンスに挑戦しなくちゃいけないから。

中村 ただ指導者もそうだし、解説者などいろんな嘉人の姿も見てみたい。それだけ今後の可能性は広がっているということ。ストライカ―コーチにもなってほしいし、これからが楽しみだよね。

――ではそろそろお時間ですが、これも訊いてみたかったんです。ふたりのプレーで一番印象に残っているものはありますか?

中村 それはまた難しいな……。でもパッと思い浮かぶのは(2013年のホームでの)新潟戦のアシストかな。

大久保 レオ・シルバをかわしてパスを出してくれたやつですよね⁉ 俺も今、パッと浮かんだのがそれ!!

中村 ほら以心伝心だ!!(笑)これは嘉人にも「本当にすごいパス」と思ってもらえていたと思うんですよ。なぜかというと、あのシーン、僕は嘉人と目を合わせていなかった。嘉人も僕を見ずに走っている。それで大井(健太郎)くんと舞行龍(ジェームズ)の間を嘉人がゴールに向かって走っているところに、コロコロとボールを出せた。そして嘉人がGKをかわしながら決めてくれた。あのアシストは嘉人といくつものプレーをやってきたなかで一番かもしれないですね。

大久保 あの形は本当にキレイだった。ボールが「キター!!」という感じで。完璧なタイミング。ある意味、怖かった。これを外したらやばいと(笑)。やっぱり憲剛さん以上のパサーはいないですよ。動いたら自分が求めている球質で出てくるので。トラップもしやすい。だからこそ点が取れた。今はそういう選手がいないですよね。ドリブラーは増えている印象ですけど、憲剛さんのようなパサーがね。憲剛さんにはそういう選手を育ててほしいですね。

中村 頑張ります(笑)。でも自分で言うのはあれですが、嘉人とは本気でサッカーを楽しめた仲でしたね。多くの言葉をかわさずとも、自分たちの“間”みたいなものがあって。そんな選手は限られていますよ。ジュニーニョや、アキ(家長昭博)、(小林)悠らともまた違いますし、やっぱり特別な間柄でしたよね。

――では最後におふたりに締めの言葉をいただければと思います。まずは憲剛さん、改めて“大久保嘉人の凄さ”をお願いします。

中村 嘉人のような選手は、もう簡単には出てこないんじゃないかな。もし出てくるならやっぱり大久保嘉人の手から生み出されるのかなと。凄い結果を残し、かつ愛されるキャラクターでもあった。これだけ感情を揺さぶられる選手はなかなかいない。真っすぐだし、魅力もあって、エッジも効いていた。スーパーなアスリートだったと思います。お世辞抜きで色々な意味で唯一無二、不世出の選手でした。

――嘉人さんには後進へのメッセージを含め、20年キャリアを続けられた自分なりの理由をお願いできればと思います。

大久保 俺は負けたくないという気持ちがなによりも強かった。それをずっと出し続けられたことが大きかったと思いますし、プレーにも表われたはずです。もし点を取れないと自分に負けたと感じちゃうし、そういう意味で自分にも負けたくなかった。だからどうやったら点を取れるのかと常に考えていました。

 それに俺はすべて100パーセントの力でプレーしていたわけではなかった。それは頭を動かしながら、要所でパワーを発揮できれば良いから。大事なところで100パーセントの力を出す準備を常にしていて、だからこそあまり怪我もしなかった。そういう風に考えられる選手になれたことが、長年やれた秘訣かなと。やっぱり考えないとダメですよ。身体能力だけでは。そういう意味で自分の経験は伝えたいですし、自分のような“危ない”ある意味“非常識”な選手をひとりくらい生み出してみたいですね。

中村 それは誰もが期待していること。これから一緒に働けることも楽しみにしているよ!!

大久保 こちらこそぜひよろしくお願いします!!

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■プロフィール
なかむら・けんご/1980年10月31日生まれ、東京都出身。川崎一筋を貫いた“バンディエラ”で昨年限りで現役を引退。今年、川崎のフロンターレ・リレーションズ・オーガナイザー(FRO)やJFAロールモデルコーチに就任。育成現場で指導法を学びつつ、多分野で活躍する。

おおくぼ・よしと/1982年6月9日生まれ、福岡県出身。川崎に加入した2013からは前人未到の3年連続でのJ1得点王に輝き、J1では歴代1位の通算191ゴールをマーク。スペインやドイツでもプレーし、国内ではC大阪、神戸、FC東京、磐田、東京Vでも活躍。今季限りでの引退を決めた。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)


 
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