――２Dラインだから白黒つけられないのは仕方がないですが、それがなかなか選手やファン・サポーターに伝わっていないように感じます。

「VOR（ビデオオペレーションルーム）の中も含めて判定するのは人間なので、どうしても白黒つけたくなってしまう。だからこそ、先ほど言ったような方向性を示しました。サッカーには勝ち負けがあり、好きなチームがあり、様々な議論があり、それが魅力のひとつ。オフサイドにも議論はあると思いますが、大事なのは審判員が統一感を持って臨むことだと思っています」

――VARをスタートさせて予想外だったことは？

「もっとうまくいかないシーンがあると危惧していました。いろんなリーグを見ても、VARを導入した初年度はうまくいっていないことが多い。イングランドのプレミアリーグもそうです。

　VARの介入も増えると思いましたが、現状ではVARが助言したのは4.4試合に１回で、EUROよりも少ない。そういう意味ではポジティブな驚きです。他国の初年度のように“VARが判定を探しにいく”ような懸念は杞憂に終わりました」

――逆にネガティブな点は？

「ネガティブというか、想像以上に審判員がストレスを感じているという印象です。試合中に自分が下した判定を変えるわけです。今までは周囲がミスだと思う判定があっても、実際どうなのか分かりませんでした。

　でも、VARが導入され、４つの事象（得点かどうか。PKかどうか。退場かどうか。警告退場の人間違い／参照リンク）に関しては、レフェリーが判定を下したあとに、その場で映像を見て再度判定をしないといけません。いわば、タイムリーに自分の判定を“答え合わせ”されるんです。

　開幕から数試合消化したあとにリモート研修会を行ないましたが、OFR（オンフィールドレビュー）で判定を変えたあとに試合を続ける大変さは、考えさせられました」
 

――自信を持って下した判定が、OFRをすると見えていた画と違う。それで自信が揺らぐ、ということですね。

「そうです。あとは、例えば前半にOFRで判定を変え、後半にもOFRで判定を変える。そうすると選手からの信頼感は薄れますよね。ただ、現状はOFRやVARで判定が変わったあとも、ほとんどの選手は判定を受け入れてプレーをしてくれています。VARが導入されたからか分かりませんが、今季のJ１リーグは面白く、非常にフェアです」

――フェアになったのは、日本人の気質がVARとマッチしたからでしょうか？　これまでは納得のいかない大きな誤審があると「あの判定は……」と不満を言われ続けてしまいました。

「J１ではOFRの映像がスクリーンに流れるので選手たちにも見えます。それを見れば『この判定で仕方ないか』と選手も思えるかもしれない。映像を確認してからの判定という納得感が日本人の気質に合っているのかもしれません。

　VARのおかげで余計な行為も見なくなりました。昨季は残念ながら、サッカーとは言えないような行為もありました。それがVAR導入でなくなるのは良いことです。

　もちろん、選手の『フェアに試合に臨もう』という姿勢が一番で、そこにVARが多少影響し、他にもリーグ開幕前のメッセージ（参照リンク）が影響しているかもしれません。とにかく言えるのは、対立が減ったということです」