ひとり歩きした3000億円――新国立競技場の建設計画が迷走している理由

カテゴリ:Jリーグ

石田英恒

2015年06月19日

3000億円という数字がひとり歩きし、反対運動が勃発。

“3000億円”という数字に周囲が敏感に反応。実際は「ザハ氏のデザインから練った実現可能な案を基に、現実的な価格に下ろして出す予定」(遠藤議員)だった。写真:石田英恒

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 今回の問題に対して、建築家の槇文彦氏らのグループが、「ザハ氏のデザインの象徴であるスタジアムの屋根を支える巨大なアーチ構造を止めることなどによって、建設費が大幅に引き下げられ、工期も短縮できる」との提案を行なった。
 
 そして、文科省側が、ザハ氏のデザインの再度の変更を検討し、場合によっては契約解除も検討していると報道されている。
 
 しかし、ザハ氏のデザインを変更する場合についても、クリアしなければならない問題点は多い。
 
「もしそうなったら、IOC(国際オリンピック委員会)、ザハ氏との話し合い、WTO(世界貿易機関)などの国際的な協定に抵触しないかどうか……。それらを詳細に詰めて、一つひとつクリアしていかなければならなくなるでしょう。
 
 いずれにせよ、技術的な面も含め、文科省内で精査しなければならず、現在、文科大臣の下で検討が行なわれているので、近々決着はつくはずです」(遠藤議員)
 
 新国立競技場の建設費は、当初1300~1500億円を予定していた。だが、2012年末にザハ氏のデザインが国際コンクールで決まり、そのデザインをそのまま実現すると3000億円の高額に上ることが明らかになったため、規模を縮小したデザインに変更し、約1700億円にまで建設費を圧縮した。
 
 しかし、その後、建材費と人件費の高騰などで、建設費は再度上昇し、現状は、再び3000億円を超える見積もりになってしまっているという。
 
「今回の問題の発端は、最初の段階で、建設費の3000億円という数字がひとり歩きしてしまったことだったと思います。つまり、最初から3000億円ありきだったのではなく、ザハ氏のデザインそのままで建設した場合の例として出した3000億円でした。
 
 実際は、ザハ氏のデザインから練った実現可能な案を基に、現実的な価格に下ろして出す予定で、最初からザハ氏の当初の案をそのまま実現する意図はありませんでした。しかし、3000億円という数字に対し、なぜそんなに高額なのかと反対運動が起き、また、ザハ氏の当初のデザインそのままではなく、ベースとして建設するはずだったのに、あの独創的なデザインを神宮の森に造るのは景観の問題があると、デザインの面からも反対運動が起きてしまったのです」(遠藤議員)
 
 結果として、工事のスタートは反対運動で遅れてしまった。この点について、都庁関係者は次のように話した。
 
「千駄ヶ谷駅、信濃町駅、神宮球場の間の都心で、国、東京都、新宿区、渋谷区、明治神宮などの土地、道路、施設が入り組み、個人の住居もある権利関係が複雑な場所に巨大スタジアムを造るのであれば、様々な問題が発生するであろうことは、初めから分かっていたはずです。
 
 晴海の広い敷地に設計し、建設するなら、反対運動もなく、スムーズに工事がスタートできたと思いますが、あのエリアで壮大な設計を採用するのであれば、本来は、事前にもっと徹底した議論をしておくべきでした。現在起きている問題の誘因となったのは、壮大な設計案を採用したのに準備不足だったということではないでしょうか」
 
 下村文科大臣は、ザハ氏のデザインを取り止めることはないと表明しているが、ザハ氏のデザインが大幅変更、もしくは撤回される可能性も、今後の展開によってはゼロではないと思われる。
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