モウリーニョがケインをここまで高く評価しているのは、攻撃的MFからCFへのコンバートを成功させた類まれな才能に他ならない。20歳を迎えるまでケインは正確なバス捌きを持ち味にする中盤の選手として活躍し、アカデミー時代にはベルント・シュスターと比較する声もあった。ただその一方で、イングランド仕様のボックス・トゥ・ボックス型のMFとして活躍するにはスピードが不足していた。
そこでFWにコンバートし、得点力が開花させたわけだが、その異色のコンバートを可能にしたのが天性のインテリジェンスだ。イングランド・サッカー史においてポール・ガスコイン以来の秀才と称されるほどで、プレミアリーグの多くのクラブと太いパイプを持つ代理人は、「今回のEUROで最も活躍する選手はケインだ。わたしは100ポンドを賭けたよ」と豪語する。
20歳までは正確なバス捌きを持ち味にする中盤の選手だった
「3年前のワールドカップより戦力は充実している。チームが目指すべき方向性も明確になった」
ケイン自身もこう語るように、開幕を控え、手応えを感じている様子だ。
今シーズン終盤、ケインは明らかに元気がなさそうだった。ファンとの結びつきの強さが感傷的にさせただろうことは想像に難くない。愛するクラブと別れを告げるXデーが刻一刻と迫る中で迎える今回のEUROで、欧州ナンバーワンの選手であることを証明する――。ケインは不退転の決意で大会に挑む。
文●ディエゴ・トーレス(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸
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