【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の十七「名将の形はひとつにあらず」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年05月07日

ハリルホジッチは日本メディアから好かれるタイプ。

日本代表監督の戦術的手腕が問われるのはこれから。今のところ、前任者にはなかった“運の強さ”も見せている。写真:サッカーダイジェスト写真部

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 昨シーズンからレアル・マドリーを率いるカルロ・アンチェロッティも、いわゆる人気者タイプではない。論理的かつ頑固で、なにより公平だからだろう。例えば先日は、16歳の新生マルティン・ウーデゴーをウォームアップさせながら使わなかった。マスコミやファンは、それを非難した。試合はマドリーが大差を付け、すでに勝ち試合、ルーキーを使うにはもってこいだった。
 
 しかしアンチェロッティは、以下の理由で“望まれていない”ナチョを選んだ。
 
「ナチョは満足な出場機会を得られていなかったが、チームのために文句を言わず、実直に練習に取り組み、プロフェッショナルに徹してきた。私は公平を貫いたのみである」
 
 この発言を、「エンターテイメントを分かっていない」と揶揄する人間は、「プロフェッショナルを分かっていない」のだろう。
 
 内部の選手にとって、“ルーキーを使うかどうか”は優先事項ではない。公平さ。部下たちはそれをリーダーに求める。組織の一員として、ナチョや彼に近い立場で考えれば誰でも分かるだろう。
 
 英国紳士で故人のボビー・ロブソンも、モウリーニョやグアルディオラ以上の“大将の器”を持つ監督だった。
 
 ロブソンは「ロナウドが戦術だ」と放言したように、戦術家として革新的なことを成したわけではない。しかし彼は人を使う時、一切の躊躇いを見せなかった。それは自分のスタッフに対して顕著で、無名だったモウリーニョを通訳兼コーチとして引き連れ、道を与え、サッカーオタクの少年に過ぎなかったヴィラス=ボアス(現ゼニト監督)の献策を用い、クラブスタッフに招くとスコットランドにコーチ留学までさせている。
 
 優秀な指導者を生み出した指導者として、ロブソン以上のリーダーは珍しいだろう。
 
 名将の形は、実に多様である。外からは、分かりにくいリーダーシップというのもある。翻って、日本代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチはどうか?
 
 ハリルホジッチの采配が評価されるのはこれからの話になる。しかし話術が巧みで、日本メディアが好きなタイプなのは間違いない。調整中の対戦国名を洩らしても「愛嬌がある」と捉えられ、内部データの体脂肪率を“漏洩”しても「話題を提供してくれる」と有り難がられるのは、彼の持つ運の強さでもあるか。追放されたに等しい前任メキシコ人監督なら、集中砲火を受けていたに違いない。
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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