【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の十五「兵法としてのクロス」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年04月23日

日本サッカーではクロスが攻撃手段として究められていない。

クロスから崩す攻撃が明確なアスレティック・ビルバオ。1試合平均で約40本のクロスを入れ、中央には高くて強いCFが控えている。(C)Getty Images

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 サッカー競技におけるクロスとは、なにか?
 
 それは、ピッチ左右からゴール方向に目がけて送り込むパスを指している。クロスボールとも呼ばれ、センタリングも類語のひとつだろう。敵陣遠くから早めに送るクロスがアーリークロス。クロスの受け手は、そのパスを待ち受け、トラップする場合もあるし、そのままゴールに向かってシュートを打ち込むこともある。
 
 早い話、攻撃手段のひとつだ。
 
 Jリーグでは、クロスは副次的要素の色が濃い。日本サッカーの特徴として、ドリブルやワンツーでマークを剥がしながら、中央から突破するという攻撃が主流であるからだろうか。遠目からのクロスはアバウトな“放り込み”のような印象を与え、ボールを失わないための窮余の策に成り下がっている場合もある。J1よりもJ2でクロスの本数が多い理由も、暗示的と言える。
 
 言い換えれば、日本サッカーではクロスが攻撃手段としてまだまだ究められていない。クロスを武器として確立している欧州のクラブと比べると、リーグ全体では大きく見劣りするのだ。
 
 日本では、サイドに置かれたアタッカーが中央に切り込んでパスやシュートを選択することが多く、高い位置でポゼッションしたうえで、駆け上がったSBがクロスを送るのが定石。それ故、SBに対しては守備が本業にもかかわらず、“攻撃的な”という修飾句が頻繁に用いられる。この点は、ブラジルサッカーの影響を少なからず受けているだろう。
 
 一方で欧州では、クロスに対してもっと積極的である。例えばヨーロッパリーグでセビージャがゼニトを逆転で破った試合、同点弾は左右を狙って侵入し、クロスを打ち込み続けた結果だった。逆転弾も右からのクロスを長身選手が中央で競り、こぼれ球をボレーで叩き込んでいる。
 
 スペインの名門、アスレティック・ビルバオはサイドから崩す、という目的が明確だ。1試合平均で約40本のクロスを入れ、アーリークロスを“大砲のように上空に放つ”。A・ビルバオの歴代CFは、高さと強さを兼ね備えた選手が多い。個人のマークを外す動きの質や、エリア内に入った選手たちのニアとファーに走り込む連係など、ダイナミズムと緻密さが共存する。
 
 すなわち、クロスの差は受け手の存在感も大いに関係している。卵が先か、鶏が先か。サガン鳥栖は、大きな体躯で跳躍に優れ、横からのボールに強い豊田陽平を擁している。昨季に躍進したチームの基本形は、「右から水沼宏太、左から安田理大が豊田に質の高いクロスを合わせる」だった。Jリーグにおいては珍しくクロスを得点パターン化したことにおいて、鳥栖は他のチームを凌駕したのである。
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