ここから怒涛の攻撃を仕掛けて同点に追いつき、さらに勝ち越さんばかりの勢いを見せたリバプールは、PK戦でもGKイェルジ・ドゥデクの神がかりな好守でミランを飲み込み、「イスタンブールの奇跡」と呼ばれる歴史的なドラマを創出。この至極の名作のメインキャストは、ビッグイヤーを最初に掲げたジェラードだった。
当時は他のビッグクラブへの移籍も噂されていたが、欧州王者となったジェラードは「こんな夜がある限り、このチームを去ることなどできない」と力強く残留を表明した。
同年夏のスーパーカップでCSKAモスクワを下したリバプールの次のタイトルは、06年のFAカップ。ウェストハムとの決勝は、一瞬たりとも気の抜けない非常にエキサイティングな一戦となった。
この激戦をより印象的なものとしたのは、ジェラードの2ゴールだ。特にダイレクトで決めた2点目のロングシュートは歴史に残る美弾であり、しかもそれが2-3とリードされて迎えた後半ロスタイムに決まった劇的な一発ということで、名勝負にさらなる彩りを添えることとなった。
PK戦(ジェラードは3人目で登場して成功)の末にFAカップ王者となり、同年夏のコミュニティシールドでもリーグ王者のチェルシーを下したリバプール、そしてジェラードにとって、現時点で最後のタイトルが12年のリーグカップだ。
カーディフとの決勝は2-2からPK戦に突入し、ジェラードは1番手で臨むも相手GKにセーブされてしまう。しかしカーディフのキッカー3人が枠を外すという幸運に恵まれ、ジェラードは自身11度目の歓喜を味わったのである。
このようにリバプールに多くのタイトルをもたらしたジェラードだが、ここまで唯一手にしていないのが、リーグ王者と世界王者の称号だ。特に前者はクラブにとっての悲願にもかかわらず、1990年以来、これを果たせていない。
昨シーズン、プレミアリーグ初制覇に王手をかけながら、終盤戦で勝点を取りこぼし続けたのは痛恨の極みだった。とりわけ格下クリスタルパレス相手に3点をリードしながら追いつかれた37節は、今でもリバプールに関係する全ての人々にとって悔やんでも悔やみきれない悪夢だろう。
今シーズン、30試合を消化した段階で首位チェルシーに勝点13離されての5位にいるリバプール。ジェラードのラストチャレンジは非常に厳しいものとなっているが、果たして残りのシーズンで彼は歓喜を味わうことができるだろうか。
プレミアリーグ、そして6回戦まで進出しているFAカップのタイトルを置き土産にしたいジェラード。しかし、仮にノンタイトルに終わったとしても、偉大なるレジェンドとリバプールが共に過ごした蜜月の時、そしてこれまでの歓喜の記憶が何ら色褪せることはない。