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「2人のサムライ」が医療従事者たちに支援。酒井宏樹と仏在住シェフの知られざる絆/後編【現地発】

カテゴリ:海外日本人

結城麻里

2020年06月07日

上村さんは酒井のことを知らずに…

サッカー選手としてではなく、ひとりの人間同士として出会った酒井(左端)と上村さん(左から2番目)。 写真:上村さん提供。

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 一方、「ピッチの戦士」酒井宏樹は、2016年夏にマルセイユにやってきた。ドイツから初めて南仏に舞い降り、家族を待つ間ホテル暮らしだった酒井は、街のあちこちを回ってマルセイユの理解に努めていた。大使館に聞いて信頼できる和食レストランも探していた。そこで聞いたのが、上村さんの店だった。

「携帯に電話がかかってきて、『30分後に食べに行っていいですか』と言われて、『ああ、いいですよ』と答えたんです」と上村さんはその日を回想する。「入ってきたときは、日本人にしては大きいな、とビックリしました(笑)。でも何の知識もなかったから、気軽に喋ってズケズケと聞いたんですよ」

――マルセイユは初めて? 何しに来たの?

「はあ、仕事です」

――へえ、仕事って何なの?

「はあ、スポーツです」

――へえ、スポーツ? 凄いね、やっぱり大きいからねえ。

 そんな会話をしながら、上村さんは酒井相手に談笑し、さりげなく聞いた。

――で、スポーツって何だっけ?

「はい、サッカーです。オランピック・ド・マルセイユ(OM)に来たところです」

 上村さんは驚いた。サッカーはまるで知らなかったが、さすがにチーム名は知っていた。マルセイユではOMは宗教のような存在だからだ。そこで会話しながら、酒井に隠れて思わずそっと携帯で調べてみたという。

「『おおっ、日本代表!?』ってね、もうビックリしましたよ。でも急に声音を変えるわけにもいかないじゃないですか(笑)。で、そのままざっくばらんに会話して。高額でもなかったから、食事をおごったんです(笑)」

 酒井は翌日もやってきた。

「酒井さんにとって僕は、全てを備えていたんですよ(笑)。サッカーを知らないし、『一緒に写真撮って』とかも言わないし、きさくに話せるし(笑)。で、ホテルに迎えに行ってあげたり、別のレストランに案内して一緒に食事したりするうち、あっと言う間に友人になっちゃったんです。そのうち奥さんも到着して、2週間後には家に呼んでいただいて、やがてヴェロドロームでの試合にも招待してもらいました。初めてのスタジアムもビックリでしたよ」

 こうしてふたりはすっかり意気投合。しかも、今回のコロナウィルス問題が起きる前から、「2人のサムライ」の連帯支援はすでに始まっていた。たとえば上村さんは、「キュイスト・デュ・クール」(ハートの料理人)というアソシエーションでも活動し、3年前から病院支援をしている。そこに酒井も加わり、ときどき入院している子どもたちを訪問して励ましてくれたという。
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