長谷部は「ある意味試されていた」と振り返った
ゴール裏にファンが不在という異常事態。この試合に先発した鎌田大地は試合後に「スタジアムの雰囲気がふわっとしていた」と振り返った。
「後半はうまく修正できたけれど、前半でボールを持てる時にうまくパスを回せなかった。チャンスというチャンスがなかったうえ、相手のやりたいことをやられてしまい、すごく難しかった」
いつもあるものがそこにない。今回の予告されたボイコットに対して、チームは準備をしてきたはずだ。それでも、違和感をが克服するのは難しかったのだろう。
鎌田と同じく先発した長谷部誠も、サポーターの不在の影響を色濃く感じていた。
「彼らのサポートというのは、自分たちを前に行かせてくれる、パワーをくれるということを、今日改めて感じた。自分たちは、この抗議の仕方に対してすべて受け入れているわけではない。けれど、リスペクトしなきゃいけない部分があると思う。サッカーは、ファン・サポーターがあってのものだから」
そして、予期しない異常事態に対面した心境をこう語った。
「今日は、自分たちがある意味で試されているゲームだと思った。こういう雰囲気の中、普段のホームの戦い方ができるのか。結局、それはできなかった。まだまだ、自分たちが未熟だということ」
もちろん、サポーターの声援が全く無かったわけではない。スタジアムに駆け付けていたファンは声をあげ、何とか盛り上げようとしており、選手にも届いていたことだろう。それでも、勝ち切るところまで試合を動かすことができなかったのだ。
ファンにはファンの言い分があり、主張する権利もある。ただ、勝てば上位進出に繋がる大事な試合で、その可能性を下げるようなことを選択したとすれば、複雑な思いを抱えるのではないだろうか。
クラブ側はこうしたウルトラスのストライキを受け入れ、彼らの要望通り、試合前にスタジアム中で歌われるクラブソング、モチベーションを高めるスタメン発表などを中止にした。だが、ほかのやり方があったのではないか。
これからフランクフルトがリーグでこれ以上失速しないためにも、再びファンとチームとクラブが一丸となって戦っていくことが大切になるはずだ。
筆者プロフィール/中野吉之伴(なかのきちのすけ)
ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)を運営中