「欧州カップ戦のために、とは考えない」のになぜ有望株が集まるのか? ドイツ屈指の”育成処”フライブルクのブレない哲学【現地発】

カテゴリ:連載・コラム

中野吉之伴

2019年05月15日

貫いた哲学がやがてクラブの強みとなる

チームを率いて8年目。前述の上位クラブへ移籍した選手たちにとっても”恩師”に当たる。 (C) Getty Images

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 シュタイエルトは即答した。

「ない。それはないよ。我々は自分たちの立ち位置というものをよくわかっている。自分たちの経済基盤を理解している。選手補強がうまくいって、チーム内の化学反応がポジティブに作用して好順位で終えるシーズンはあるかもしれない。そうなったらうれしいし、自分たちのことを誇りに思う。

 だが、自分たちの身の丈以上のことを始めようとは思わない。育成クラブとして取り組んでいるからこそ、この競争が厳しいブンデスリーガで何十年にわたって戦い続けることができているんだ」

 選手の移籍をネガティブには捉えない。新しい若手選手がチャンスを得る枠ができたと考えるのだ。そのサイクルの中でうまくいかずに降格することもある。しかし、それを必要以上に悲観もしない。

 「選手を育てる環境づくり」。徹頭徹尾、大事にしているのはそこだ。多くのブンデスリーガクラブが経済的な理由でセカンドチームを廃止する傾向が強くなってきているなか、フライブルクは「セカンドチームでの経験こそがユースから大人の選手に成長するためにとても大切なプロセス」という姿勢を崩さない。

 そうした環境は出場機会に飢え、成長を切望する若手選手をひきつける。

 ケルンから移籍してきたドミニク・ハインツは「監督の(クリスティアン・)シュトライヒは選手を成長させてくれる。彼の言葉は僕らを助けてくれるんだ」と語り、キャプテンのマイク・フランツは「すごく多くを要求してくる監督だと思う。毎日の練習で成長していくことを常に求められるんだ。本当に多くのことを彼から学んだよ」と感謝する。

 選手だけではなく、トップチームの指導者も自前で育てていくのも特徴だ。監督シュトライヒ、アシスタントコーチのラルス・フォスラー、パトリック・バウアー、スポーツディレクターのヨハン・ザイラー、強化部長のクレメンス・ハルテンバッハらと多くが育成アカデミーで指導者として、スタッフとして経験を積んでからステップアップを遂げている。

 地方には地方の良さがある。湯水のようにお金が使えるクラブをうらやむのではなく、自分たちの置かれた境遇を嘆くのではなく、それすらも自分たちの武器に変えていく。生き延びる力と知恵を作り上げたものは強い。

文:中野 吉之伴

【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日生まれ。秋田県出身。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2018-19シーズンからは元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督を務める。「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」(ナツメ社)執筆。オフシーズンには一時帰国して「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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