両監督のあいだには大きな差が見られた
72分に、コバチ監督が次の動きを見せる。ゴレツカがハビ・マルティネスに代わってピッチに登場。これにより、チアゴがアンカーの位置に入る。だが、この起用法には果たして、どこまでメリットがあったのか。
守備的な選手を減らして攻撃的な選手を入れることが、チームとして攻撃的なプレーができることに繋がるわけではない。ボランチの位置でただパスを捌くだけのチアゴは、リバプールにとっては怖くもなく、それならそこで起用する必要性もなくなってしまう。
コバチ監督はさらに79分、ハメスに代えてサンチェスをピッチに送る。求めたのはゴールへの推進力だろう。チームとしてチャンスが作れないなら、より単独でボールを運べる選手を起用しようというアイデアか。
守備的な選手を減らして攻撃的な選手を入れることが、チームとして攻撃的なプレーができることに繋がるわけではない。ボランチの位置でただパスを捌くだけのチアゴは、リバプールにとっては怖くもなく、それならそこで起用する必要性もなくなってしまう。
コバチ監督はさらに79分、ハメスに代えてサンチェスをピッチに送る。求めたのはゴールへの推進力だろう。チームとしてチャンスが作れないなら、より単独でボールを運べる選手を起用しようというアイデアか。
ただ、サンチェスが入ったことで戦い方がすぐに変えられるということが、バイエルンには浸透していなかった。逆に個の推進力任せは、ボールロストの可能性を高めてしまう。
クロップ監督は、そんなバイエルンの動きを見て次の手を打ってきた。81分、フィルミーノに代えてのオリギ投入だ。
単独でもボールを奪取できる唯一の存在だったハビ・マルティネスが中盤からいなくなった影響は、すぐに分かったはずだ。スペースが生まれ、ボールを引き出しやすい状態が出来上がっていた。
となれば、パスを引き出す名手であるフィルミーノを下げても、パスを前線に当てることはできるし、フィジカルに強くCBを引き出せるオリギなら、うまく起点作りに使える。
そして85分、試合を決定づける3点目が生まれた。ボールを引き出したオリギが、ジューレをうまく引きつけて右サイドに展開。フリーで受けたサラーが、ジューレが戻る前のスペースにパスを送ると、抜群のタイミングで走りこんだマネが頭でゴールを決めた。
本来、CBが飛び出したらボランチが空いたスペースを埋める約束事があったはずだが、そのためのハビ・マルティネスはベンチに下がっており、チアゴは誰もいない前のスペースを守っていた。
クロップ監督は86分、ミルナーに代えてララーナを投入。この時間帯、試合の流れから考えると、交代の時間を使って選手の頭のなかを整理させる、中盤にフレッシュな選手を入れて試合を落ち着かせる、そして選手に出場機会を与えるという、幾つもの意図があったことだろう。
ひとつの選手交代で複合的なプラスを生み出すことに成功し、試合運びに影響を与えるだけの采配を見せたクロップと、1対1の交代以上の効果を出せなかったコバチの違い。また、この試合における采配というだけではなく、これまで培ってきたチーム作りの成熟度という点でも、両者のあいだには大きな差が見られた。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日生まれ。秋田県出身。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2018-19シーズンからは元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督を務める。「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」(ナツメ社)執筆。オフシーズンには一時帰国して「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。