ファンの熱を活かしたA・マドリーの闘将
「厳しい要求をされるのがマドリーというクラブ、ということは弁えているよ。いつも勝つことが求められ、勝つだけでは満足してもらえない。ファンが、我々選手の奮起を促してくれるのには感謝しているよ。ただ、できるならブーイングよりも拍手が欲しいんだけどね」
ジョレンテはこう洩らしているが、ブーイングと拍手はバランスが難しいということか。悪いプレーを見逃され、延々と声援を送られ続けると、それはそれで選手の感覚が鈍化してしまう。
ジョレンテはこう洩らしているが、ブーイングと拍手はバランスが難しいということか。悪いプレーを見逃され、延々と声援を送られ続けると、それはそれで選手の感覚が鈍化してしまう。
ベルナベウのファンと選手が一体となった時、その熱気は想像を超える。愛憎が極端だからこそ、それだけのエネルギーが出る。情熱が混ざり合うことで、思った以上のプレーが生まれるのだ。
彼らのライバルであるアトレティコ・マドリーはかつて、ファンのあり余る熱をうまく扱うことができなかった。クラブを愛し過ぎるファンが多く、自ら傷つけるように、チームを非難してダメージを与えていた。
その流れを劇的に変えたのが、2011年に監督に就任したディエゴ・シメオネだ。スタジアムの熱を受けながら、ベンチで闘争心を見せ、選手にスピリットを伝播させ、さらにスタジアム全体を煽った。その結果、士気の高さで相手を打ち破るチームに生まれ変わったのだ。
「ピッチでは、その人間性を見せろ!」
シメオネは言う。
ブーイングを克服し、拍手に変えられる選手だけが、最高の舞台に立つことを許されるのだ。
文:小宮 良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。