現在のサッカー界では二度と見ることができない夢と幻想――。

ロッシに覚醒するきっかけを与えたブラジルの守備。CBのオスカールやルイジーニョ、そしてイタリアのしたたかさを知るファルカン(当時ローマ所属)は守備の強化をサンターナ監督に進言したが、聞き入れられることはなかった。 (C) Getty Images
攻撃については、まさに熟成を極めていたブラジルだが、その一方で守備があまりに脆かった。1次リーグでは緩慢なプレーから2試合(ソ連、スコットランド)で先制を許し、完勝したアルゼンチン戦でもDF間の雑なパスワークから1点を失っていた。
組織面の決まりごとも少なく、時折個々が注意力散漫になるブラジルは、守備のシステムについては数歩も進んでいた試合巧者のイタリアから見れば、隙だらけに映った。むしろ、ダニエル・パサレラが守備を統制し、ディエゴ・マラドーナという新進気鋭の天才を擁するアルゼンチンのほうが、イタリアにとっては数倍も怖かったのだ。それに勝ったという自信が、イタリアにはあった。
「点を取ることがこうも簡単なことなのだと、長い間忘れていた」というロッシは1点目で覚醒するや、25分にブラジルDF陣がお見合いしたところをかっさらってドリブルから勝ち越し点を決め、74分にはCKからブラジルのクリアが中途半端になるところを突いて決勝点をゲット。大一番で見事なハットトリックを決めて、世界を驚かせた。
ブラジルの敗北は、大きな損失とも言われ、この敗戦がなければサッカー界のその後の流れも変わっていたという説もある。しかし、仮にブラジルが守備の脆弱さを抜群の攻撃力でカバーして優勝したとしても、そう現実は変わらなかったことだろう。なぜなら、あのサッカーは、テレ・サンターナ監督が率いる、あのメンバーのブラジルにしかできないものだったからだ。美しいトータルフットボールが、74年西ドイツ大会のオランダにしかできなかったように……。
今やブラジルであっても、攻守に関わらず全ての選手に多くの制約が課せられるサッカー界において、良い意味でも悪い意味でも、二度と82年のブラジルのようなチームは出現しない。古き良き時代のサッカー界が残した夢と幻想――。32年前に世界を魅了したカナリア軍団とは、そんな存在であったと言えるだろう。
◆7月5日に行なわれた過去のW杯の試合
1982年スペイン大会
「2次リーグ」
スペイン 0-0 イングランド
ブラジル 2-3 イタリア
1994年アメリカ大会
「決勝トーナメント1回戦」
ナイジェリア 1(延長)2 イタリア
メキシコ 1(1PK3)1 ブルガリア
2006年ドイツ大会
「準決勝」
ポルトガル 0-1 フランス
組織面の決まりごとも少なく、時折個々が注意力散漫になるブラジルは、守備のシステムについては数歩も進んでいた試合巧者のイタリアから見れば、隙だらけに映った。むしろ、ダニエル・パサレラが守備を統制し、ディエゴ・マラドーナという新進気鋭の天才を擁するアルゼンチンのほうが、イタリアにとっては数倍も怖かったのだ。それに勝ったという自信が、イタリアにはあった。
「点を取ることがこうも簡単なことなのだと、長い間忘れていた」というロッシは1点目で覚醒するや、25分にブラジルDF陣がお見合いしたところをかっさらってドリブルから勝ち越し点を決め、74分にはCKからブラジルのクリアが中途半端になるところを突いて決勝点をゲット。大一番で見事なハットトリックを決めて、世界を驚かせた。
ブラジルの敗北は、大きな損失とも言われ、この敗戦がなければサッカー界のその後の流れも変わっていたという説もある。しかし、仮にブラジルが守備の脆弱さを抜群の攻撃力でカバーして優勝したとしても、そう現実は変わらなかったことだろう。なぜなら、あのサッカーは、テレ・サンターナ監督が率いる、あのメンバーのブラジルにしかできないものだったからだ。美しいトータルフットボールが、74年西ドイツ大会のオランダにしかできなかったように……。
今やブラジルであっても、攻守に関わらず全ての選手に多くの制約が課せられるサッカー界において、良い意味でも悪い意味でも、二度と82年のブラジルのようなチームは出現しない。古き良き時代のサッカー界が残した夢と幻想――。32年前に世界を魅了したカナリア軍団とは、そんな存在であったと言えるだろう。
◆7月5日に行なわれた過去のW杯の試合
1982年スペイン大会
「2次リーグ」
スペイン 0-0 イングランド
ブラジル 2-3 イタリア
1994年アメリカ大会
「決勝トーナメント1回戦」
ナイジェリア 1(延長)2 イタリア
メキシコ 1(1PK3)1 ブルガリア
2006年ドイツ大会
「準決勝」
ポルトガル 0-1 フランス