【W杯 今日は何の日?】6月30日「10人の獅子とひとりの“愚か者”」

カテゴリ:国際大会

サッカーダイジェストWeb編集部

2014年06月30日

選手を英雄にも国民の敵にも変えてしまう、大舞台の恐ろしさ。

この後、代表チームではことあるごとにスケープゴートにされたベッカムだったが、日々成長を遂げることで、国民との蜜月の時を取り戻した。 (C) Getty Images

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 1998年6月30日、サンテティエンヌのスタッド・ジョフロワ・ギシャールでは、フラン大会の決勝トーナメント1回戦、アルゼンチン対イングランド戦が行なわれた。アルゼンチンは日本と同じグループで全勝の首位、イングランドは2勝1敗の2位で、それぞれグループリーグ突破を果たしての対決であった。
 
 試合は開始5分で動く。ディエゴ・シメオネがGKデイビッド・シーマンに倒されて得たPKをガブリエル・バティストゥータがパワフルに決めて、アルゼンチンが先制。対するイングランドは4分後、ドリブルで直進したマイケル・オーウェンが相手DFのファウルを誘ってPKを得ると、アラン・シアラーがこれを決めて追いついた。
 
 勢いを得たイングランドは、16分に素晴らしいゴールを決める。1点目の起点となったオーウェンが、センターサークル内でボールを受け、そのままドリブルでアルゼンチンゴールにまで達したのだ。18歳の「ワンダーボーイ」が世界に鮮烈な印象を与えた瞬間だった。
 
 しかし、アルゼンチンも負けていない。前半終了間際に得たペナルティエリア手間のFKで、鮮やかなトリックプレーからハビエル・サネッティがフリーとなり、イングランドゴールに鋭く突き刺した。前半で4つのゴールが生まれた前半は、両チームの積極的なプレーもあって、非常に娯楽性に富んだものとなった。
 
 後半開始。そして2分後に、事件は起こった。ハーフウェーライン付近で倒されたデイビッド・ベッカムが、寄ってきたシメオネに右足を振り上げたのだ。キム・ミルトン・ニールセン主審はその瞬間を間近で目撃しており、迷わずベッカムにレッドカードを掲げる。好ゲームに水を差す、全く不要な行為だった。
 
 それでもイングランドは果敢に攻めた。むしろチャンスはアルゼンチンよりも多かったし、ソル・キャンベルがゴールを割る場面もあった(キーパーチャージで認められず)。しかし、延長戦でも最後までゴールを奪うことはできず、PK戦に突入。ポール・インス、デイビッド・バッティが失敗し、ベスト16で大会から姿を消すこととなった。
 
 10人のイングランドが勇気あるプレーを見せただけに、余計にベッカムの退場はもったいなく、そして国民の怒りを増幅させた。国内紙から「10人の勇敢な獅子とひとりの愚かな少年」という散々な見出しで叩かれただけでなく、何者からか死の脅迫を受けるなど、ベッカムとその家族には身辺にまで危険が及び、しばらく国外退避を余儀なくされるほどだった。
 
 その後も代表の一員であり続けたものの、本当に意味で信頼を取り戻すために、ベッカムは長く厳しい日々を送らなければならなかった。2002年日韓大会の予選でみずからのFKでイングランドを本大会に導き、以降、代表チームに不可欠な存在として国民に愛され続けるとは、この時、ベッカム自身も想像できなかったことだろう。
 
 ワンプレーでひとりの選手をスターに変貌させることもあれば、たったひとつの行為で愛すべき青年を国民の敵に変えてしまうこともあるワールドカップという舞台。ベッカムは、その恐ろしさを最も強烈に味わった選手のひとりだった。
 
――◆――◆――
 
 6月30日には、2002年日韓大会の決勝が行なわれた。ともに持ち味を発揮したハイレベルな好試合となったが、見事な連係からロナウドが2度、オリバー・カーンの牙城を崩して5度目の世界一。初のアジア開催のワールドカップは盛況のうちに幕を閉じた。


◆6月30日に行なわれた過去のW杯の試合
 
1954年スイス大会
「準決勝」
ハンガリー 4(延長)2 ウルグアイ
西ドイツ 6-1 オーストリア
 
1974年西ドイツ大会
「2次リーグ」
ブラジル 2-1 アルゼンチン
オランダ 2-0 東ドイツ
ポーランド 2-1 ユーゴスラビア
西ドイツ 4-2 スウェーデン
 
1990年イタリア大会
「準々決勝」
アルゼンチン 0(3PK2)0 ユーゴスラビア
イタリア 1-0 アイルランド
 
1994年アメリカ大会
「グループリーグ」
ブルガリア 2-0 アルゼンチン
ナイジェリア 2-0 ギリシャ
 
1998年フランス大会
「決勝トーナメント1回戦」
ルーマニア 0-1 クロアチア
アルゼンチン 2(4PK3)2 イングランド
 
2002年日韓大会
「決勝」
ブラジル 2-0 ドイツ
 
2006年ドイツ大会
「準々決勝」
ドイツ 1(4PK2)1 アルゼンチン
イタリア 3-0 ウクライナ
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