【W杯 今日は何の日?】7月3日「夏の終わりを告げた開催国の終戦」

カテゴリ:国際大会

サッカーダイジェストWeb編集部

2014年07月03日

複雑な心境のナポリの人々が「2対1」の結末を望んだカード。

82年スペイン大会以来の世界一に向けて、機運は最高潮に高まったところでの敗北。イタリアの失望と喪失感はあまりに大きかった。 (C) Getty Images

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 1990年7月3日のイタリア・ナポリ市民の心境は複雑だった。この日、スタディオ・サンパオロではイタリア大会準決勝が行なわれるが、問題はそのカードである。開催国イタリアと対峙するのはアルゼンチン。よりにもよって、この街のクラブ、ナポリの英雄であるディエゴ・マラドーナが率いる南米の強国と、母国が対戦することになってしまった……。
 
 ナポリの人々が望んだシナリオは「イタリアが2点を奪って勝つが、アルゼンチンはマラドーナのスーパーゴールで一矢を報いる」というもの。やはり、イタリア人は母国の勝利を望んだ。しかし実際、両チームのここまでの歩みを見れば、イタリアの勝利は願望などでなく、誰もが実現を確信していたことだった。
 
 イタリアはグループリーグから準々決勝まで、オーストリア、アメリカ、チェコスロバキア、ウルグアイ、アイルランドと、全てを撃破。しかも無失点を続けていた。対する前回王者のアルゼンチンは、開幕戦でカメルーンに衝撃的な敗北を喫し、グループリーグは1勝1分け1敗の3位。決勝トーナメント1回戦では優勝候補ブラジルをマラドーナのドリブルから生まれた1ゴールで沈めたものの、準々決勝ではユーゴスラビアに苦戦の末、PK戦で辛うじて勝利し、準決勝に駒を進めていた。イタリア有利は明白だった。
 
 試合は開始17分で動く。イタリアの速いパスワークからFWジャンルカ・ヴィアリがボレーシュート。GKセルヒオ・ゴイコチェアが弾いたところを、この大会でブレイクし、すでに4点を挙げていたサルバトーレ・スキラッチが詰めたのだ。イタリアの先制、しかも取るべき選手のゴールに、スタジアムは大いに沸く。まさに、シナリオ通りに試合は展開していくと誰もが思っていた。
 
 しかし、アルゼンチンは数々の修羅場を経験したせいか、この完全アウェーな状況でも妙な余裕を醸し出している。あるいは、「マラドーナのホーム」という安心感があったのかもしれない。逆に言えば、それまでローマのスタディオ・オリンピコでしか戦ってこなかったイタリアのほうが違和感を抱いているようにも思えた。

 そしてイタリアが誇る名GKワルテル・ゼンガの大会無失点記録が517分まで伸びた時、右のフリオ・オラルティコエチェアが上げたクロスをクラウディオ・カニージャが頭でコースを変えてゴールに流し込む。67分、アルゼンチンは同点に追いつき、イタリアは大会初失点を喫したのだ。
 
 イタリアは、いまひとつだった中盤の司令塔ジュゼッペ・ジャンニーニをロベルト・バッジョに代えて勝ち越しを狙うも、アルゼンチンの巧みな守備にリズムを狂わされ、決定的な場面を作り出すことができない。一方のアルゼンチンは多くの選手が警告を受け、延長前半13分にはリカルド・ジュスティが退場処分となるも、最後までイタリアにゴールを割らせなかった。
 
 試合はこの大会3度目のPK戦へ。ここでは、地元の大観衆がイタリアにとっては完全にプレッシャーとなった。アルゼンチンは準々決勝ですでにPK戦を経験しており、精神的に完全に優位に立っていた。後攻のアルゼンチンは4人全員が成功。準々決勝では失敗したマラドーナも余裕で決めた。対するイタリアは、4人目のロベルト・ドナドーニが止められる。続く5人目のアルド・セレーナが蹴ったボールも、GKゴイコチェアの脇腹にすっぽりと収まった。決勝目前で、開催国の歩みは止まった。
 
 この瞬間、沸きに沸いていたイタリア全土が静まりかえる。人々を熱狂させたひと夏の盛大な祭りは終わり、ここで事実上、大会は終焉を迎えた。翌朝より、イタリアには平凡な日々が、そして人々は日常生活に戻ったのである。
 
 優勝だけを狙う開催国の敗北が、かくも寂しさと喪失感を抱かせるものであると、改めて感じさせた、イタリアの暑い一夜であった。
 
 
◆7月3日に行なわれた過去のW杯の試合
 
1954年スイス大会
「3位決定戦」
オーストリア 3-1 ウルグアイ
 
1974年西ドイツ大会
「2次リーグ」
アルゼンチン 1-1 東ドイツ
オランダ 2-0 ブラジル
西ドイツ 1-0 ポーランド
スウェーデン 2-1 ユーゴスラビア
 
1990年イタリア大会
「準決勝」
アルゼンチン 1(4PK3)1 イタリア
 
1994年アメリカ大会
「決勝トーナメント1回戦」
サウジアラビア 1-3 スウェーデン
ルーマニア 3-2 アルゼンチン
 
1998年フランス大会
「準々決勝」
フランス 0(4PK3)0 イタリア
ブラジル 3-2 デンマーク
 
2010年南アフリカ大会

「準々決勝」
アルゼンチン 0-4 ドイツ
パラグアイ 0-1 スペイン
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