ワールドカップ最大の悲劇から20年……甦るアンドレス・エスコバルの思い出

カテゴリ:国際大会

サッカーダイジェストWeb編集部

2014年07月02日

「こんなことなら、自分たちが負ければ良かった」(アメリカ)

全く致し方のない状況だったアメリカ戦のオウンゴール。責任感の強いエスコバルは自身を責めただろうが……。 (C) Getty Images

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 そんな危険な状況の下で、コロンビアは「選手が前評判の高さに舞い上がっていた」(バルデラマ談)こともあり、ルーマニアに予想外の敗北。連敗は絶対に許されない開催国アメリカとの2戦目でも、先制点を献上してしまう。
 
 これを許してしまったのが、エスコバルだった。相手選手が入れた左からのグラウンダーのクロスを、自陣のゴールに押し込んでしまったのだ。反対サイドで待ち受ける相手選手にボールを通すまいと、必死に足を伸ばした結果のオウンゴールだった。
 
 この後、さらに1点を失ったコロンビアは、2戦目で早くもグループリーグ敗退が決まる。世界が驚愕した結果だったが、裏社会では優勝候補の早期敗北によって大損をした輩どもが、驚きよりも激しい怒りに打ち震えていた。射殺事件の翌日に逮捕された犯人も、これが動機であることを認めている(組織的犯罪か個人的恨みかは解明されなかったが)。
 
 グループリーグ終了後、多くの選手は危険なコロンビアに帰らず、ラスベガスでのバカンスを選択したが、エスコバルは敗戦の責任を受け止め、堂々と頭を上げて母国へ戻った。そして、事件は起こった。この悲報を聞いたアメリカの選手たちからは、グループリーグを突破した喜びは消え去り、「こんなことになるなら、自分たちが負ければ良かった」と語る選手もいた。
 
 エスコバルの葬儀には12万人が参列。後にメデジンには銅像が建てられたことからも、いかに人々が生前のエスコバルを愛し、そしてその死に衝撃を受け、悲しみに打ちひしがれたかが分かるだろう。父親ダリオは息子の遺志を継ぎ、路上生活を送る子どもや身体にハンデのある子どもにサッカーを学ぶ機会を与える「アンドレス・エスコバル・プロジェクト」を立ち上げ、精力的に運動を展開した。
 
 この事件の後、コロンビア・サッカーはますます暗闇に包まれ、多くの選手はエスコバルの二の舞になるのを恐れ、怯えた選手のなかからは、代表選手、あるいはプロ選手からの引退を選ぶ者が後を絶たなかった。
 
 代表チームも98年フランス大会(グループリーグ敗退)を最後に長く表舞台から遠ざかることとなったが、そんな状況でもコロンビア・サッカーは死ななかった。関係者や選手たちの地道な努力と強化により、16年目の今夏、ようやく大舞台への復帰を果たした。
 
 20年前に起きたサッカー界最大の悲劇。そこから人々は立ち上がり、エスコバルの後輩たちは今、ブラジルで世界を楽しませ、そして国民に至福の時を与えている。
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