今大会で最初の記者会見に登場した際には、「俺の模範のリーダーはトントン・パット（パトリス・エヴラ）だ」と宣言。ロッカールームでもマンチェスター・ユナイテッドの元キャプテンそっくりに振る舞いはじめた。その噂が外部にも漏れてきたのは、ラウンド・オブ16のアルゼンチン戦（４－３で勝利）の後だった。
 
　早々とベスト16進出を決めたものの、フランスのグループリーグ第３戦（デンマーク戦、０－０で終了）は内容的にパッとしなかった。いよいよ「真のワールドカップがここからスタートする」と覚悟した、アルゼンチン戦当日――。
 
　カザン・アレーナのロッカールームでディディエ・デシャン監督は、「君たちの家族も見守っている」とあえて短くスピーチ。アシスタントコーチのギー・ステファンが言葉を継ぎ、「我々を待っているのはホンモノのワールドカップの大一番だ。今夜は１チームしか残れないぞ。残りたいと思うかどうかは君たち次第だ」と告げた。
 
　すると続けてポグバが、突如として燃える男と化し、こうゲキを飛ばしたという。
 
「俺は家に帰りたくなんかないぞ！　俺はまだ２週間パスタを食いたい！　だから今日は俺たち、ピッチにキンタマを残してくる覚悟でやらなくちゃいけないぞ！」
 
　チームメイトたちは奮い立った。

 

　準決勝ベルギー戦（１－０）に勝利した直後も同じだった。ピッチ上では全員が勝利に酔いしれて歓喜に沸いていたが、ポグバだけは違った。鬼のような形相で全員を集め、こう叱咤したのだ。
 
　「セ・パ・フィニ！（終わってねえぞ！）　セ・パ・フィニ！　セ・パ・フィニ！」
 
　その後ベースキャンプに戻り、記者会見でこのシーンを問われたポグバは答えている。
 
「２年前（EURO）の悔しさを俺はいまも忘れていないんだ。あのとき俺たちは、（準決勝の）ドイツ戦をファイナルにしちゃったんだよ。ドイツに（２－０で）勝ったもんだから、後はたいしたことないって思っちゃったんだ。間違いだった。だから今回は最後まで力を尽くすべきなんだ！」
　
　こうも言った。
 
「俺は星を獲っていない。ユニフォームには星が付いているけど、俺自身は一度も星を獲っていないんだ！」